実況30 とあるラスボス戦(解説:命の剪除者MALIA)

 現在の、わたしたちの常駐パッシブスキルです。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【祝福:筋力強化(◆6)】

【祝福:因果減衰(◆4)】

 

 もう【1ターンスケジュール(◆2)】がなくても大丈夫だと、全員一致で決まったので、GOUゴウさんの作った新しいスクリプトを導入することになりました。

 この【祝福:因果減衰(◆4)】のことです。

 簡単にいえば、パーティ全員が受けるあらゆる“外的影響”を常時半減させるものです。

 わかりやすいところでいえば、何をされても受けるダメージが半分になります。

 叩かれた時の衝撃もきっちり半分なら、首をしめられるような力も半分。

 ゲームの物理演算そのものに対して数学的に作用するので、絶対的な効果が約束されています。

 ただし、そんな効果が◆4のコストで済むあたり……デメリットもキッチリあります。

 この効果は適用される……どころか、ほとんど効かなくなってしまうのです。

 HARUTOハルトさんの蘇生魔法やリィンカーネーションの自動蘇生の邪魔にはならないだけ、マシではありますが。

 というか、そうでなければ、今からわたしたちのやろうとしている作戦自体が破綻しますし。

「……回復魔法の無い世界で戦った経験も、それなりにある。問題無い」

 などと、当たり前のように言われました。

 彼を信じて突っ走るしかありません。

 

 まさしく、木造の山道といった風景が果てしなく続いています。

 どれだけ走ったでしょう。

 四方八方から、大樹の枝がわたしたちを潰そうと襲ってきます。

 もしくは、シャンパンゴールドとエメラルドグリーンのいりまじったキレイな光を帯びたかと思うとーー同じ色の光線が雨あられと降ってきます。

 今、それがKAIカイさんとLUNAルナさんを掠めました。LUNAルナさんは死んでしまい、すぐに身体が修復されて蘇生。

 KAIカイさんは生きていましたが、右腕が消し飛びました。

 HARUTOハルトさんと、よみがえったばかりのLUNAルナさんが、まずリィンカーネーションをかけなおし、GOUゴウさんが★1の技で適当な枝葉を攻撃、クールタイムのあとに、HARUTOハルトさんがKAIカイさんに【完治】の魔法をかけました。

 腕は辛うじて止血されただけで、治りませんでした。

 まるで【完治】の名前が見かけ倒しみたいになっていますが、これが【祝福:因果減衰】のデメリットです。

 もう、満足に回復したければ、死んで生き返るしかありません。

「死んで治すとか、前のゲームでは慣れっこだったよ」

 LUNAルナさんが事も無げにいいますが、わたし、そんなことにはなるべく慣れたくありません。

 わたしたち以外にも生命樹を攻めているパーティはかなりいますが、やっぱりみんな、似たような攻略法をとってるみたいです。

 【リターン・トゥ・フォーエバー】だとか【エンジェリックなエンゲージ】だとか【不死者どもの祝祭】だとか、技名がパーティごとに違うだけで、大体は自動蘇生魔法でのごり押し戦法が多いみたいです。

 富士山ほどもある、生きた大樹の身体を駆け上がるのですから、命がいくつあっても足りない、とは本当にこのことです。

 足場のせまい、枝の橋が見えてきました。

 当然、あれも生命樹の身体の一部です。いつ動いたり、魔法を放ってくるかわかったものではありません。

 渡るのが嫌すぎますが、他に道もありません。

 あっ、噂をすればその枝が頭(?)をもたげて、やっぱり金とみどりの光を放ってーー、

 たちまち飽和した奔流が、わたしたちを跡形もなく呑み込みました。

 

 ーー。

 

 一瞬、意識が途切れましたが、再び現世に呼び戻され、繋ぎ止められる感覚がしました。

 無事(?)、何事も無く(???)生き返ったわたしたちは、ちょっと頑張りすぎて休憩に入った枝の橋を、今のうちに渡っていきます。

 もちろん、HARUTOハルトさんとLUNAルナさんが、リィンカーネーションをかけ直すのは忘れません。

 

 

 そんなことを、どれだけ繰り返したでしょう?

 一日も経っていないのに、もう何年も走っているような感覚がして、気が遠くなってきました。

 坂になっている、生命樹の胸を駆け上がるとーーついに、その顔が視界いっぱいに現れました。

 それでも、距離的にはまだまだ遠くにいるのですが。

 そして。

「待て、HARUTOハルト!」

 馴染みのある、女性の鋭い声が、わたしたちをーーHARUTOハルトさんを呼び止めました。

 鎖で作った鞭を手にした、艶やかな黒髪を長く伸ばした、西洋のお人形さんみたいに愛らしく、けれど気高い面差しをした。

 よく、いっしょにご飯を食べにいく、わたしたちの友だち。

 INAイナさんが、行く手に立ちはだかりました。

 

 その周囲には、テンプル騎士の法衣と金色のプロテクターを重ね着した、大柄な男性。

 RYOリョウさんが、

 並んでいました。

 もう一度、正確に伝わるように言います。

 

 RYOリョウさんが、四人います。

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