実況31 生命樹デスマッチ(解説:鞭使いINA 命の剪除者MALIA LUNA GOU ペテンの総合商社KAI)

 あたしの常駐パッシブスキルは、変わり無い。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【祝福:装甲強化(◆6)】

【ギア・ヘイスト(◆4)】


★★☆☆☆☆☆☆☆☆

 次々やってくる他のパーティ達は、対峙して動かないあたし達をちらりと一瞥するものの、ラスボス目前という、他人に構ってられない状況でもあるので、さっさとすれ違って行った。

 横槍が入る心配も無さそうだし、生命樹の矛先もあたし達からは逸れるだろう。

 流れ弾には気を付けないといけないだろうけど、能動的に邪魔が入らないだけ、よしとする。

 幼い頃、祖父に“金網電流デスマッチ”と言うプロレスリングの動画を見せて貰った事があるが、今の状況もそれみたいなものだろう。

 差し詰めこれは、生命樹ラスボスデスマッチか。

「……一つ、訊きたい」

 HARUTOハルトが、あたしの周囲に侍る四人のRYOリョウを順々に見ていた。

「……は、どうした」

 流石に勘づいたか。

 

RYOリョウなら、キャラロストしたよ。

 NPC

 

【鉄壁の軍勢(★8)

 RYOリョウと全く同じ性能のNPCを四体生成し、味方とする。

 代償に、オリジナルであるRYOリョウのアバターはロストし、ゲームから永久退場する】

 

 スキルなんて、並大抵の代償で承認されるものでは無い。

 問答無用でキャラロストを起こすスキルと言うのも、通常は通るわけが無い。

 ゲームバランス的にもオンラインコンテンツの倫理としても。

 しかし、あくまでも発動コストとして、コストを自分自身に限定した設定で、正規に提出すれば、運営AI的にはOKだったようだ。

 ゲームの自由度と自己責任のバランス、と言う事だろう。

 この生命樹の眼前にたどり着いてすぐ、あたしの相棒がこれを発動していた。

「ログイン待機所フォルムでサボりながら、いい報告を待っているよ」

 それだけを言い残して、彼はこの世界ゲームを去った。

 一人残されたあたしは、遺された★2を消化ついでに、インドの鞭剣・ウルミを左手に召喚した。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 


 わたしは、耳を疑いました。

「どうして、そんなことをーー」

MALIAマリア、無駄口叩いてる場合? あたしはもう、クールタイムに入ってるよ」

 彼女は、問答無用でわたしに向かってきます。

 わたしは、あわてて大鎌を出しました。

【デスサイズ召喚(★2)】

★★★★★★★★☆☆

 襲いかかるヘビのようにしなる、INAイナさんの鞭剣を、わたしは鎌ではじきます。

 けれど、RYOリョウさんが、彼を完全に模したNPCが、彼女の鞭と入れ替わるようにわたしに殴りかかります。

 これも、とっさに大鎌を盾がわりに受け流しますが、わたしの背後に、背中合わせになるように回り込んだINAイナさんの鎖鞭が、首に絡みつきました。

 そのまま、おんぶするように締め上げられました。

「……ぅ、く……」

 声が、息が、出ません。

 けれど、舌打ちしたのは彼女のほうでした。

「何か、パッシブスキルか補助魔法を仕込んでるね? あんたの体重とあたしの腕力で、これくらいの“仕事量”を加えれば、本来、首が確実に折れてるんだよ」

 絞殺に必要な“力”加減は、手で覚えている。

 前に、女の子三人でお酒を飲みにいったとき、彼女が酔っぱらいながらそう言っていたのを、今になって思い出しました。

 そして。

 INAイナさんが、突然わたしを手放して、跳びのきました。

 LUNAルナさんの【死の息吹(★3)】が、こちらへ飛んできたからです。

★★★★★☆☆☆☆☆

 INAイナさんが逃げざるを得ず、なおかつ、わたしが直前で回避できる絶妙なタイミングと、威力調整でした。

 

 

「私達が外野からどうこう言う事じゃないよ、MALIAマリア

 左手を突き出したまま、気弾の通過を見届けてから

私は言った。

「二人で作ったスクリプト。ロマンススキルを言い表す言葉とは、その一言に尽きるから」

 けほっけほっ、と咳き込みながらも、MALIAマリアはゆっくり立ち上がった。

 命を刈る死神のごとき大鎌を構え直した、その寸後、もう彼女の姿勢に迷いは無かった。

 まあ本来なら、INAイナ、空気読めよって話ではある。

 けれど、あの娘との、この因縁もまた、HARUTOハルトにはーー私達には大切なものだった。

 ラスボスの生命樹ごときとは比べるべくも無く、私達がその先に見据えている“結末”と同じくらい、この対決は精算せねばならないもの。

 ……HARUTOハルトは、誰の事もしない。


 

 俺は、突進して来たRYOリョウの一人を、真正面から受け止めた。

 敵もプロテクターを含めれば相当の体格だが、何しろこちらの装甲はゴーレムなのだ。

 大人と子供で組む、相撲ほどの格差はある。

 だが、油断は出来ない。

 俺は勿論、組み付いたRYOリョウに細心の注意は払いつつも、目端で見ていた生命樹の顔にも意識を馳せた。

 先行する他パーティに対し、熾烈な防戦を繰り広げており……やはり、莫大な光学的エネルギーをチャージし、天へ解き放った。

 外野からの襲来アウター・ハザードとでも言うべきか、光条の雨が、俺達をも襲う。

 俺達とINAイナ、敵味方双方が一先ず間合いを離してこれの回避に専念せざるを得ない。

 俺はこの瞬間、一つのスキルをオンにした。

【ラーニング・シミュレーター(★2)】

★★★☆☆☆☆☆☆☆

 術者である俺とは独立した別個の“魔法思考”が、生命樹の動きを学習し、攻撃を先読み。敵の攻撃の軌道や範囲予測をグラフィック表示してくれる。

 勿論、所詮は無生物の推論に過ぎないから過信は禁物だが……これの有無だけでも、生命樹からの横槍に対する対処は、かなり差を付けられる筈だ。

 実際、生命樹から放物線を描いたエネルギー弾が飛んで来て、俺は余裕を持って躱せたが、RYOリョウのコピーの一人が若干逃げ遅れ、余波に巻き込まれて転倒した。

 

 おれは、愛用の大剣を大きく振りかぶって、

「ディフェンシブ・エッジ!」

 親切に技名を叫んでやった。

 目線の先には、無防備に立つLUNAルナの姿がある。

 そしておれは、強化された筋力をもって、大剣を明後日の方向にブン投げた。

 RYOリョウの紛い物の一体へ、面白いようにクリーンヒット、生命樹の端から転落した。

【ディフェンシブ・エッジ(★3)】

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 強化された筋力で、大剣を投擲する遠距離必殺技。

 なお、投げた剣はブーメランのように持ち主へと帰ってゆく。その特性のせいで★コストが3に膨れ上がってしまった。

 とにかく、早くも一体を始末。残りは3だ。

 まさか防御ディフェンスを口走りながら、自軍の魔術師に熱い視線を送っていた大剣使いが、遠くから狙っていたとは思わなかったのだろう。

 所詮はNPCだ。思考が素直すぎる。

 だが、攻撃こそが最大の防御なので、嘘はついていないだろう!

 

★★★★★★★★★★

「ありがと、LUNAルナ。少しだけ、気持ちが軽くなった」

 あたしは、その言葉を唇だけでなぞり、決して発声しなかった。

 そして、彼女に感謝しながら、あおあかの炎を帯びさせたウルミで、あの女を殺しにかかる。

【紅蓮螺旋(★2)】 

★★★★★★★★☆☆

 あの女の首へ喰らいつくーー寸前、HARUTOハルトが割って入り、あたしの燃え盛るウルミをメイスに絡め取らせた。

 まるで、刃の鞭にも、そこから延焼する焔にもまるで恐怖を抱いていないようだ。

 実際、先端のヘッドからグリップまで単一の鉄で出来ているそれはたちまち熱せられて、彼の掌から手首を焼いている筈だが。

【ロイヤルガード(★8)】

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 RYOリョウの一人が瞬時にあたしの側へ馳せ参じ、HARUTOハルトへ襲い掛かり、

 GOUゴウが無言で放った名も無き特大弓矢に撃たれ、吹き飛んだ。

 追い討ちに、建造物破壊級の“通常攻撃”が放たれ、そのRYOリョウに止めを刺した。

 前ゲームの経験だろうか、神憑り的なエイムだと思った。

 けど、これでも一応、RYOリョウの、このゲームでの選手生命を懸けて召喚したNPCなのだから、もう少し大事に扱って欲しいのだけど。

 もう、手負いのを含めて二人しか残っていない。


 

 RYOリョウの一人が、弓を放った直後の俺にタックル。

 想定よりも衝撃が強く、ゴーレムをして、後ろ手に倒されてしまった。

 いや。

 強いのは衝撃そのものと言うより、これは。

 俺は弓を一旦捨て置き、RYOリョウともう一度組付いて見た。

 成る程。

 “仕事量”とは、手で覚えるもの。

 俺も、そこは彼女と同感だ。

 絞め殺す力も、物作りの際のトルクや重量も、手に覚えさせる事を意識すると、かなり便利だ。

 組み付いたRYOリョウから伝わる馬力が、さっきとは違う。

 結論、

「奴等は、ターン毎に筋力、或いは、速度を増している!」

 

 

★★★★★★★★★★

 

 やっぱりか。

 何となく、私も、そんな感じの違和感はあった。

 GOUゴウは、肉眼で微細な運動量の違いだとかを見分けられる。

 彼が断定するなら、最早疑う余地は無かった。

 まだ私を庇っていたHARUTOハルトを見た。

 彼は、目だけで答えた。

 私も、それに倣った。

 ーー分かったよ。

 

 私は彼の意思を受け取る。

 同胞よ、私の意思をあまねく受け取れ。

 我ら、千の軍勢に値せん。

 

 ーーアルス・マグナ。

 

★☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 身体が、知覚が、自分のものでは無いような万能感に研ぎ澄まされる。

 それこそ、神でも降りたかのように。

 あのINAオンナが超人となるのなら、

 こちらも自分を超人たらんとする。

 これも、前ゲームからのセオリーだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る