実況32 ゲームセット(解説:鞭使いINA 命の剪除者MALIA LUNA GOU ペテンの総合商社KAI)

★★★★★★★★★★


 へえ。

 今知ったけど、あの二人もロマンス関係組んでたんだ?

 まあ、超合理主義な人達だったし、手段の一つとして選択肢に入れていてもおかしくは無い、か。

 ゲームシステムとしてのロマンスと、実際のそれとは別問題だ。

 それよりも重要なのは、今のスキルにどんな効果があるか、だけど。

 エフェクトの挙動とか、肉眼で見える彼等の動きの変化から、強化系補助バフ魔法と見て間違いないかな。

 こちらの【ギア・ヘイスト】も早々に見抜かれてしまったし。

RYOリョウ、手早く済ませよう」

 本物であれば、この一言とあたしの目線だけで意図は伝わるのだけど……NPCが相手となると、やはり不安は残る。

 けど、もうあたしに勝ち目があるとすれば、特攻以外に無い。

 あたしは、真っ直ぐHARUTOハルトを目指して駆け出した。

 GOUゴウが、あたしの進行方向を見据えて大弓を引き絞る。KAIカイMALIAマリアが、あたしを三角形の中に閉じ込めるかのごとく、包囲網を構築していく。

 構うものか。

 あたしの敵は、あの男ただ一人。

 すぐ目の前で、足元の生命樹の身体が派手に砕けた。

 一見して何もないが、よく目を凝らすと、水の中の油のように、光の僅かな屈折が見えた。

 柱のように長大な棒……GOUゴウの放った透明矢のようだ。

 アブにでも刺されたかのような不快感に、遠くの人面樹がこちらを向いて、殊更キラキラ光る。

 怒り心頭のそれを、成層圏まで届くかと言う勢いで打ち上げ、何条もの光線雨があたし達の頭上を襲う。

 狙いは、これか。

 

 

 ここまで言う機会がなかったのですが、お気づきでしょうか。

 生命樹の身体の上ということは、わたしーー大地の民ーーにとって“接地”ができない状況であることを。

 操るのに使えそうな、岩や砂がろくにないのです。

 さすがにフェイタル・クエストのラスボス戦だからか、攻め側が圧倒的に不利な条件になっているのです。

 聞くところによりますと、わたしたち側にとっての死守対象でありHEAVEN&EDEN側の人たちにとってのラスボスである大天使セラフも、“天”の魔法が効きにくい、そういう設定になっているそうです。

 ……実はに思い至っているのですが、今はそれより目の前の戦いに集中します。

 “接地”がまともにできない状況、わたしは白兵戦をするしかありません。

 生命樹の光雨から逃げまどうINAイナさんへ、大鎌で斬りかかり続けます。

 わたしのほうは、GOUゴウさんの魔法によって、光雨の軌道予測が視えるので、間を縫って攻め続けます。

 この予測は外れることもあるそうですが、気にしてられません。わたしの被弾を恐れて手を緩めれば、全員が負けるかもしれないのです。

 大鎌の大質量が、縦に真っ直ぐ彼女を襲いーー生命樹の身体に深々と突き刺さりました。

 皆さんもご自宅とかにある草刈りの鎌をご覧いただければわかりやすいと思われますが、刃先に重心が傾倒しています。

 それがこんな長柄武器となると“刺す”力にもかなりの重さが乗ります。

 結局のところ、どれだけ鍛練やパッシブスキル、補助魔法で筋力を鍛えたとしても、女の身体はたいてい男性に比べて小柄ですし、リーチと重量ウエイトで不利。

 わたしにとって、この大鎌は、そんな基本的なハンデを補うための武器選定でした。

 生命樹もまた、相当痛かったと思います。

 声というには音のない、振動の暴力を口からまきちらして、倒木のような枝をわたし達に落としてきました。

 葉がこすれ、野太い枝が鈍重に生命樹の身体を叩く中を、わたしはあくまでもGOUゴウさんのガイドに頼りきって避けます。

 ここで、星が補充されました。


★★★★★★★★★★


 一気に畳み掛けたいので、皆さんには申し訳ないのですが、ちょっと使わせてもらいます。

【クレセント・アトラクト(★3)】

★★★★★★★☆☆☆

 大きく袈裟懸けに振り下ろした鎌が、急に牛みたいな力でわたしを引っ張るようでした。

 それが、INAイナさんを股下から頭まで両断しようと切り上げられますが、流石に加速を増した彼女に寸前で避けられます。わたし本人ですらそれを見届けるよりも速く、鎌が切り上げの勢いを保ったまま、今度は横薙ぎに襲いました。

 彼女のカバーに駆けつけていた、手負いのほうのRYOリョウさんへ。

 INAイナさんを護ることしか念頭になかったのでしょう。ガードも間に合わず、彼の首は鎌に切り飛ばされました。

 わたしの身体をくるりと一回転させた鎌は、ようやく引っ張るのをやめてくれました。髪と法衣が、斬擊の名残に螺旋を描いてから、残心のように落ち着きます。

 クレセント・アトラクト。

 対象物の位置まで自分の身体が引き付けられる、引力をともなった二連撃です。

 大地の民でない人たちにとって、ややこしい話なのですが、“接地”できなくとも土行の観念的な性質を必殺技に組み込むことはできます。

 この技は、土行のもつ、流れへの抵抗、あるいは“固定”の性質を利用しています。

 わたし自身、技が終わるまで引っ張られるままになるしかない不自由さはありますが、そのお陰で対象へ限界を超えた速さで迫れるとも言えます。

 

 

【虚偽のニブルヘイム(★7)】

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ーー終わり無き終わりを知れ」

 私は、入れ替わるようにHARUTOハルトを背に庇いつつ、MALIAマリアの残した★をさっさと独り占めして、詠唱した。

 もう予想は付いてると思うけど、基本的にはフェイントのつもり。

 “ウロボロス”戦での二番煎じだけど……仮にそれを見抜けたとして、あの女はどうする?

 それでも私を後回しにすれば、ニブルヘイムの詠唱が完成して、生命樹の光雨との波状攻撃に曝される事になる。まず、生還は出来まい。

 ならば、私を先に殺せば良い。

 その間にMALIAマリアKAIカイに追い付かれ、やっぱり詰みだ。

 フィクションであれば、ここで第三の選択肢とかあって、私もHARUTOハルトも始末した上でMALIAマリア達からも逃れる冴えたやり方が土壇場で編み出されるのだろうけど。

 残念ながら、この世界ゲームはフィクションだけど、出来事は現実である。

 奇跡など、ありはしない。

 そしてINAイナは、私へと襲い掛かる選択を選んだ。

 まあ、自分で選んだコトだから、いいんじゃない?

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ディフェンシブ・エッジ!」

 おれが叫びながら大剣をぶん投げると、敵の女は予想外と言った顔をして、慌てて回避した。

 最前まであの女が居た位置に、剣が勢いよく突き立てられた。当然だが、当たれば只では済まない威力は乗せてあった。

 で、おれのやり口に、敵はおろかLUNAルナ達、おれの味方どもですら呆気に取られた様子だ。

 いやいや、俺は技名を叫びながら単に武器を投げ付けただけだ。

 見ろ、今回は武器が手元に戻ってこない。

 ★を使ってないのだから、これくらいの中二病行為は個人の自由だろう?

 手前勝手に勘違いした、その一瞬の隙が致命的だ。

 久しぶりだが、戦闘中に味方さえも困惑させるのはやっぱ楽しいな!

 揃って間抜けヅラ晒してて、超ウケるんですケド。

 

 

 俺は弓を限界まで引き絞っていた。

 KAIカイの暴挙に一瞬面食らったINAイナへ、狙点が定まった。

 矢を、放つ。

【ロイヤルガード(★8)】

 なまじNPCの反射神経を持つRYOリョウのコピーが眩く光ってテレポート、彼女を突き飛ばすように庇って

 致命傷にこそならなかったが、RYOリョウはトラックにはねられたように吹き飛び、INAイナも生命樹の地面へ全身を強かに叩き付けられた。

 

 

 結果論だけどさ。

 やっぱり、あんた本人と二人パーティの方が良かったみたいだよ、RYOリョウ

 あんたがルーチン仕込んだNPCじゃあ、あたしに対して過保護すぎる。

 あんた本人みたいに、必要に応じてあたしを見捨てる選択肢が取れないんだよ。

 “俺が四人に分身して最強に見える!”とか、小学生の算数じゃないんだからさ。

 まあ、ログイン待機所フォルムに帰ったら、その辺の反省を持ち帰って教えてあげるよ。

 

 ーー終わり無き終わりを知れ。

 ーー生命の終焉、封縛がもたらせし永劫を知れ。

 ーー其は彼の地に偽られし墓標に在らん。


 ーー虚偽のニブルヘイム!

 

 あの女が呼び出した、もやを連れた真っ白な無数の球体と、生命樹の撒き散らすシャンパンゴールドとエメラルドグリーンの入り交じった光雨。

 綺麗。

 あたしはそれら全てを、一身に受け止めた。

 

 また、勝てなかったな。

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