実況13 このパーティを再評点せざるを得ない。(解説:KAI)

 全滅すれば良い薬になると、そう思った。

 いや実際、相討ちだったので全滅ではあるのだが……甲種の討伐に成功したのは事実だ。

 クエストギバーのNPCから報酬を受け取る時も、周囲のプレイヤーどもは何も感じなかったらしい。

 この界隈で甲種が討伐されたのは、まして、それが始めて間もない初心者であったなど、いつ頃ぶりなのか。

 それだけ、無関心な古株プレイヤーばかりだと言う事だ。

 おれには分かる。

 この世界は、緩やかに死につつある。

 

 この若造パーティについて、色々と予想外だった。

 まず、あの戦闘において、GOUゴウにはかなり無茶振りをした。

 正直、後々の成長の布石になればーーおれを苛立たせる人格が失せる切っ掛けとなってくれれば御の字程度であり、そこまで期待していなかった。

 それが、一発で理解され、順応されるとは。

 まあ、あのタイミングで火矢を放ったのは、若干軽率だった。

 そのせいで、敵を追い詰めてのは確かだろう。

 恐らく、あの毒ガスは“人喰い庭園”にとっての奥の手であり、何らかの著しい消耗を強いるものだった筈だ。

 つまり、ああした奥の手は出し惜しみをさせておいて、使わせないまま畳み掛けるべきだったのだ。

 だがまあ「ボスモンスターの発狂ルーチン」だとかは、少々古い手法でもある。

 あれくらいの若手にとっては、馴染みが薄いのかも知れない。

 だが、この程度の失敗であれば、もう繰り返すことは無いだろう。

 

 そしてMALIAマリアについては、ある意味で最も不可解だった。

 前にも言ったが、プレイヤーの閉鎖的なこの世界において、新規ユーザーの多い土行使いは、あまりパーティの輪に入れない。

 だが、この小娘の動きは最低でも五年はパーティ行動をやってきたそれだ。

 それも、HARUTOハルト達と違って、考え方や動きに別ゲームの癖が感じられない。

 つまり、土行のユニーク・スキルが登場してからの早期にこのゲームを始め、なおかつ、どこかしらのパーティでかなり本格的に活動していたと推測される。

 ……それに相当する天才、などと言う可能性はハナから考えていない。

 漫画じゃあるまいし、可能性を考えるだけでも馬鹿げている。

 尤も、新規勢の土行使いだからと言って迎え入れないパーティばかりでも無いだろう。

 運良く入れたパーティと、最近になって喧嘩別れした、と見るのが一番現実的だろう。

 とにかく、おれ以外の若造の中では最も練度が高い。

 おれが毒ガスで死んだ後の事ではあるが、戦闘のリプレイログを観た限り、最後にモーメント・シェルターを選んだ判断はナイスだった。

 おれの言った「LUNAルナを守れ」という言葉の本質が「詠唱を完成させろ」と言う意味にあった事を、最も理解していたと言えよう。

 

 次にLUNAルナだが。

 この小娘については、あまり評価は変わらない。

 だが、あの極限状態で詠唱を完成させた根性は見る所がある。

 以上。

 

 最後に、やはりHARUTOハルトだ。

 今回は特に、ヤツの掌の上で万事が動いていた。

 明らかに、このおれを動かす為だろう。

 ヤツの言う通り、クエストの選定を丸投げして調べもしなかったおれやLUNAルナが悪いと言えば、その通りだ。

 無気力に徹していたのが、この場合仇となった。

 “★潰し”系の競合種であると最初から分かっていたなら、あらかじめ察しもつけられたのだが。

 この手の★潰し系の敵は、ルーキーを鍛える“教材”としては最適な相手なのだ。

 何故なら、普段より少ない★を、どう効果的に使うべきかの判断力が嫌でも養われるからだ。

 今はもう、そんな事も忘れてしまった老害プレイヤーばかりだが。

 おれがあの時に言った「★10も★3も同じだ」と言うのは、それが理由だった。

 そしておれは、まんまとその教材を使う“教官”をやらされたわけだ。

 辛うじて、今回もおれのスキルを使わずに終わった。

 ただ、これであいつらが理解したのは確かだろう。

 このゲームで本当に肝となるのは、★を使わない通常行動の練度にある事を。

 ★を迅速に使いきり、尚且つ、最適なスキルを選定し、そしてクールタイムの10秒を的確に凌ぐ事。

 あの男は、最初からそれを理解していたのだろう。


 やはり、こいつは何かが違う。

 それが何であるのか、おれが掴む時は来るのだろうか。

 

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