実況12 魂魄を喰らう死封の魔樹(解説:LUNA)
“甲種”競合種の討伐クエストを受ける。
競合種には甲種・乙種の区分がある。
単純な身体能力に大差はないが、甲種は厄介な特殊能力や搦め手を持つ個体が多く、事実上の上位種とされている。
この前、サバト市街地で始末したヤモリの競合種は乙種だった。
パーティの更なるステップアップの為か。
それとも。
その心は、彼本人にしかわからない。
具体的な仕事を探してみると、数分と経たずに見つかった。
ターゲットの名前は“人喰い庭園”。
キリエ古城跡の庭園に根を張り、占拠してしまった
庭に咲く全ての植物ーー庭そのものが牙を剥く。
甲種の名に違わない脅威だ。
なお、他プレイヤーは誰も請け負っていないようだ。
甲種なんてわざわざ狙わなくとも、そこそこの仕事をこなしていれば生活はできる。
ぬくぬくとした街は、そんな古株プレイヤーが大半を占めている。
腰抜けしかいない世界だ。
廃墟となった古城全体に絡み付く、樹の根っこ。
城の尖塔を丸呑みにしたような、魔樹の本体が、私達を見下ろしてせせら笑う……ように見えた。
表情筋なんて無いクセに。
★★★★★★★★★★
【1ターンスケジュール】
HARUTO 戦う
LUNA ヴォイド・ブルート(★8)
GOU 戦う
KAI 戦う
MALIA デスサイズ召喚(★2)
交戦前、あらかじめ
ーー我、条理を喰らいし夢幻の大蛇に命ず。
同瞬、
あのオヤジ……
ともすれば、いつも以上に遅い。
もういい。あんなやつ、最初からあてにしてない。
私はあくまで、詩歌を紡いで行く。
一方で魔樹が、幹に穿たれた空洞ーー口腔のつもりだろうかーーから、音無き雄叫びをあげて。
【星喰らい】
ご丁寧にも
★★★
目を、疑った。
私達のスキルコストを意味する★が、三つに減った。
それも消費したのではなく、
最大値を削られた!
ターンごとにチャージされても、ここからは★3しかもらえないということだ。
ちょっと、待ってよ、毎ターン、たった★3で、何ができるってーー、
「……詠唱を止めるな」
それだけで理解した。
この男、知ってたんだ! こうなる事を!
知ってて、私には黙っていた。
「謀ってくれたな、小僧」
ギロリ、と彼を睨み付けたのは、前線に立っていた
「……作戦前に質問しなかった、貴方達の落ち度だ」
彼の悪びれない態度に対し、あの男はチッと舌打ちするだけだった。
蔦が、枝葉が、木の根が、鋭利な触手となって四方八方から皆を襲う。
柔軟な木質の身体とは言え、樹齢数百年か、ともすれば千年にも達しているかもしれない巨躯の質量が音速で迫ってくれば、致命的な打撃となる。
幸い(?)ゴーレムによろわれた身体が錐揉みを描いて吹っ飛んで、強かに打ち付けられたくらいで済んだが。
「目だけに頼るな! 現場を“映像”として脳に焼き付けて常に360度シミュレートしろ!」
な、ナニいってんのこのヒト。
……いや、
まるで後頭部にも目がついているようだ。
言う方も言う方だけど、一度言われて実行できる方も、頭おかしい。
「
ぇ……えっ?
あ、そうか、私、★を持ってかれる前にコスト支払ってるから、詠唱さえ完成すればーー。
「★10も★3も同じだ。手持ちで出来ることに目を向けろ」
★★★
【1ターンスケジュール】
HARUTO 微動回復(★3)→対象者:GOU
LUNA 詠唱中
GOU 戦う
KAI 戦う
MALIA 戦う
ひもじい。
ただただ、そう思う。
大鎌を携えた
遠く、城の尖塔から枝の豪腕が私へ伸びてくる。
「ッ……!」
鼻先で枝が吹っ飛んだ。
彼らのカバーが少しでも遅ければ、私の顔面が打ち砕かれていた。
「詠唱を止めるな」
息を呑んだ私の傍らで、
★★★
【1ターンスケジュール】
HARUTO 微動回復(★1)→対象者:MALIA
LUNA 詠唱中
GOU 火矢(★2)
KAI 戦う
MALIA 戦う
放たれる。本体に着弾。炸裂。砕ける木片、広がる猛火。
やっぱり、樹には火だ。陳腐ではあるけど。
ただ、それは。
相手を死に物狂いに追い詰めるコトも意味した。
★★★
【1ターンスケジュール】
HARUTO 戦う
LUNA 詠唱中
GOU 戦う
KAI 戦う
MALIA モーメント・シェルター(★3)→対象者:LUNA
城の尖塔のひとつに巻き付いていた、花の蕾が開いた。
ラフレシアみたいなそれが、目には見えない、無味無臭の毒を勢いよく放射した。
他プレイヤーの体験談を聞くに、肌がひんやり冷えたかと思うと、次の瞬間には神経毒が回って地獄の苦しみを味わうそうだ。
少なくとも、経皮吸収される毒なのだろう。
けれど、毒ガスが到達する前に、私の眼前が閉ざされた。
その名の通り、仲間一人を一瞬だけ保護する、岩石装甲を成型する。
一瞬である必要性は……スクリプト的なコストの問題だ。これが長時間続く設定にすると、★9を平気でもってかれると、本人が前に言っていた。
仲間達の苦悶の声が、岩を通して、くぐもって聴こえる。
「……詠唱を、止めるな……」
死にそうな
私も、伊達に核戦争後の世界とか生き抜いたわけではない。
言われなくても、止めるものか。
★★★
【1ターンスケジュール】
HARUTO 戦う
LUNA ヴォイド・ブルート発動
GOU(死亡)
KAI(死亡)
MALIA ミニコメット(★3)
岩のシェルターが砕け散った。
無防備となった私に、残量した毒ガスが容赦なく襲いかかる。
ホントだ、最初はひんやりした感触がして。
たちまち全身の神経系がやられて、呼吸器が麻痺した。
私は、息を振り絞って詠唱を続ける。
死に体の
さすがに質量と速度が段違いだ。
やつは大樹のバケモノにふさわしい、繊維質な破断音を立てて大きく怯んだ。
鞭のようで、破城槌のような樹木の腕が私を襲いーー
そして、ようやく詠唱が完成した。
ーー我、条理を喰らいし夢幻の大蛇に命ず。
ーー声無き冥府を引き摺り出し、
ーー後に遺るは意思無き遺灰のみと知れ。
ーーヴォイド・ブルート!
肌が焼けるかと思った。
視界に閃光が焼き付き、真っ白な炎が城を、“人喰い庭園”を覆い尽くした。
やっぱり、樹のバケモノには炎の魔法が一番だ。
色の無い焔はたちまち、やつを無価値な灰に変えてゆく。
のたうちまわって消そうとしても無駄だ。
この魔法は火行だけでなく、水行と金行を応用したゼリー状の火種を召喚した、現代風に言えばナパーム弾でもあるのだ。
朽ちゆくバケモノを目の当たりにしながら、私もまた、倒れ伏した。
ちょっと離れた所で、
どうせ死んでも生き返る。
敵を殺ればこちらの勝ちだ。
私達は、甲種に勝ったんだ……。
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