実況34 エターナル・フォース・エクスプロージョン・ノヴァ(解説:KAI)

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 HARUTOハルトLUNAルナのアバターには、早くも綻びが出始めていた。

 正気とは思えない……とは今更言わんよ。

 ★が30ある。

 この状況を見れば、おれが今から成すべき事がわかると、ヤツは言った。

「時は来た!」

 うわ、ビビった!

 HARUTOハルトだ。

 まるで人が変わったようなテンションに豹変してやがる。

「古の戦士よ!

 時の彼方に封じられし、禁断のわざを、今こそ解き放つが良い!

 その為であれば、我等、如何なる犠牲も厭わずッ!」

 おれは……おれ、は……。

 逡巡する間も、熱弁する小僧の指先から少しずつ崩壊が進んでいる。

 別に、ヤツの意図に乗る筋合いはどこにもない。

 ほっといても、生命樹はそろそろ討ち取られるだろう。

 ヤツらがこのまま消えたとしても、この★30が直ちに無くなる事はない。

 口車に乗るのが嫌なら、ヤツらが消えた後でも構わないわけだ。

 だが。

 

 ーーそれで、いいのか?

 

「★30! 後にも先にも決して巡る事の無いこの状況! 好機! 好奇ッ!

 誰にも披露する事の無かった、心のうちに燻らせるしか無かった究極奥義が、今こそ陽の目を見る、空前絶後のチャンス!

 ……決して、抗えまい」

 

 そうか。

 そうだな。

 ならば。

 

 おれは、腹を決めた。

 

「ならば刮目して見ろ! 青二才ども!」

 

 おれが若き日、このゲームに降り立った頃ーーいや、それどころか中二の頃に思い描き、決して実現する事の無かった、

 作るだけ作ったはいいが、コストオーバーで机上の空論でしかなかった、

 

【エターナル・フォース・エクスプロージョン・ノヴァ(★27)

 KAIカイによって発せられる、究極の剣技。

 相手は死ぬ。例外無く】

★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 おれは、一息に生命樹の鼻先に迫った。

 大剣が、アルミ棒のように軽いッ!

 

 袈裟斬り逆袈裟水平斬り唐竹割り袈裟斬り斬り上げ逆袈裟唐竹割り突き飛び上がり斬り上げから墜ちる勢いでの唐竹割り、以下順不同省略!

 秒間何十もの太刀筋が、みるみる生命樹を掘削し、抉って行く!

 それだけでは無い。

 剣から、おれの身体から、即席の太陽じみた光熱爆が放射し、生命樹の顔面のみならず身体を、富士山程もある大質量全てを見る見る燃え上がらせてゆく!

 他パーティのプレイヤーが巻き込まれて何人も死んだ! すまん!

 ごめんでは済まされない事なのでおれの名前が赤フォントになったけれど、もう止められはしない!

 おれ自身ですらも!

 四方八方、あらゆる座標で光爆が弾け、さながら“戦争そのもの”を無数、生み出してゆく。

 おれは、それでも剣を止めない。

 鼓膜が死んだ!

 目が潰れそうだ!

 今、生命樹はどうなってるんだ!?

 生きているか、死んでいるのかさえもわからない!

 とにかく、剣を止めない。

 “余波”の光爆止まらない。

 もう一度、声高らかに宣言するッ!


「エターナル・フォース・エクスプロージョン・ノヴァ!」

 

 これぞ、永劫を体現した最強の剣技!

 そして、フィニッシュ!

 おれは、重力を失ったかのように真上にぶっ飛んだ。

 ビル何階分、山何合相当の高さだろうな?

 光に眩んだ視界の中、それでも生命樹らしき脳天が眼下に見えた。

 おれは綺麗に真っ直ぐ、剣を振り下ろした。

 これまでで最も膨大な、光熱の間欠泉が吹き上がって、途方もない質量の生命樹は一瞬で蒸発し、根幹からこの世から消え去った!

 

 ……終わった。

 HARUTOハルトよ。

 おれの、負けだ。

 そして。

 

 おれ達の、勝ちだ。

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