実況16 HARUTOは今頃何を思っているやら(解説:鞭騎士INA)

 やれやれ。

 フェイタル・クエストの発令っていつも唐突だよね。

 流石に人生二度目ともなると、ある程度、あたしの中でも耐性はついていたみたいだ。

 フェイタル・クエスト。

 身も蓋も無い言い方をするなら、収益が落ち目となったVRMMOを終わらせるか、今後も続けるに値するかをクエストと言うお題目でジャッジするもの。

 斜陽になりつつあるタイトルのユーザーが、フェイタル・クエストを押し返せないようであれば、サービスを続ける経済的価値は無いと判断される。

 逆境を乗り越え、世界が死守されたのであれば、それはそれでドラマチック。ゲームの活気が盛り返すカンフル剤となる。

 ついに、この二十年続いた老舗タイトルにも審判の時が訪れたと言う訳だ。

 まあ、稼働開始当初は20代だったベテランプレイヤー達も、今や40過ぎのオジサン・オバサンばかり。

 その人達が場を仕切った状態で膠着した世界。

 そこそこのクエストだけこなしてりゃ良い、空気読めよ的な閉鎖的なムラ社会が、新規ユーザーを爪弾きにする世界。

 あたしもテンプル騎士団に目を向けざるを得なかった遠因だったけど、若手は若手で独自にやろうにも、何処のエリア行ってもヤクザのシノギみたいな老害ユーザーの独占状態だった。

 古参タイトルの限界集落化は、近頃社会問題にもなっていた。

 古くはファミコンだとかから始まった、ゲームそのものの起源は“子供の玩具”だったらしい。

 けれど今や、ゲームとは大人の生業だ。

 世界を維持する、経済活動だ。

 そんな中、いつまでもネバーランドを夢見て来た老害ども。

 あいつらは、一人頭数ミクロンずつだけど、自分の首を自分らでシメてきたんだよ。

 あたしとしては、このゲームに移住早々、ついてないと言えばついてない。

 せっかく、こっちでの戦闘にもある程度慣れて来たのに。

 あたしが一つ前に、HARUTOハルト共々プレイしていたゲームも、フェイタル・クエストの果てにサービスを休止したばかりだから、尚更。

 でもまあ。

 なんか、シニカルな笑みが口許に浮かんだ。

 あたし達って、何だか疫病神みたいだ。

 そう思わない? HARUTOハルト

 

 しかし、そこまで割り切っていても尚、気に入らない点はいくつかある。

 まず、HEAVEN&EDENと大地の民、別のゲーム同士で衝突させられる構図について。

 かつて、これと似たような事を運営AIがやらかしてスキャンダルになったゲームがあった。

 ただしその時は、双方のゲームのユーザーに「NPCの勢力と戦っている」と言う嘘をついた上でクエストを進行されていたのが詐欺罪等に抵触してしまっていた。

 その事例では、HEAVEN&EDENみたいなファンタジーゲームと、銃器で戦う近未来ゲームとをぶつけていたんだけど、例えばファンタジータイトル側の持つ弓矢を、近未来タイトル側からは銃器に見せ掛けるような欺瞞が、告知も無く行われていたのが問題だった。

 多分、お互いをNPCだと思い込みながら殺し合うと、どんなデータが取れるのかって、運営AIが思い付いてしまった社会実験だろう……と言うのが大方の見解だ。

 けれど今回は、クエスト発令の時点でその種明かしがされている。

 HEAVEN&EDENの世界と、大地の民の世界とは実は繋がっていて、双方の世界は敵対関係にあったのだ……と、包み隠さず提示されている。

 後は双方、戦いたければ戦えば良い。

 嫌ならそのゲームを辞めれば良い。

 それだけの話。

 あと、あたしが気に入らないもう一つの要素は、このクエストの敗北の先にあるものが、両陣営で不公平だと言う点かな。

 大地の民側が負けたら世界滅亡ーーつまりサービス終了を意味するのに、HEAVEN&EDEN側が負けても、単なる地底世界への島流しだけ。

 この文章から察するに、大地の民側のユーザーって、地底世界しかない設定の環境で、日の目も見れずに生活してたのでしょう?

 

 まあ、後はクエストの詳細な“設定”を読むだけ読んでみるけど。

【かつてこの世界は“創世神”によって創られた。

 創世の時、神は己を二柱の分身にわけた。

 天の統治者である“生命樹”と、大地の統治者である“大いなる天使セラフ”がそれだ。

 人々は二柱のそれぞれに属し、文明を築いてきた。

 だが、それは生命樹の一方的な振る舞いによって崩壊する。

 “天”こそが神に通じる道と説き、セラフを、その信徒ごと地底深くへ追放した。

 だが。

 エデンとなった“天”側に住まう者達はやがて、イコンとして大聖堂を興し、地底世界と通じ合っていた中枢聖職者達は“大地の民”との複雑な利害関係を築きあげていた。

 エデンを統制するために、その、地上側からすれば異色の能力を汚れ仕事に利用する形で。

 再び日の目を夢見る、地底人の思いにつけこんで。

 そして、創世の時代の“真実”を代々受け継いできた一族“命の剪除せんじょ者”達が、この腐敗した“天地”世界にて蜂起するーー】

 

 ……とりあえず、感想は一つだけ。

 これじゃ、あたし、HARUTOハルトと敵対出来なくない!?

 そ、そんな……。

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