実況17 とある告白、そして、(解説:命の剪除者MALIA)
海が、瞬く間に消えていました。
突然、海底が消失して、海水が滝のように落ちていきます。
その眼下ではもうひとつの世界がーーわたしが本来住んでいた、地底大陸が広がっています。
わたしは、まだ何も言ってません。
なのに、どうして?
どうして、フェイタル・クエストが発令されてしまったのでしょうか。
……そう言いながらも、本当はわかっています。
わたしという“命の
このフェイタル・クエスト【天地戦争】が開始される条件とは。
わたし達、“大地の民”側のユニーク・スキル保有者……言い換えれば命の剪除者に任命されたプレイヤーの誰かが、こちら側の“天の民”ーーつまり
この五年、よく秘密が守られたものだとは思います。
ネットで調べればすぐに露呈したのでは、と思われるかもしれませんが、“コスト共有ターン制バトル”と“スキル自作システム”のそれぞれは、前例のあるシステムであり、HEAVEN&EDEN固有のものではありませんでした。
それに、VRMMO法により、ゲームプレイ中のインターネット閲覧は禁止されています。
また、ゲームをログアウトして再び戻ってくるのには面倒な手続きが山のようにあって、基本的には別タイトルへの移住やVRMMOそのものの活動を休止する時くらいしか、ログアウトする人もいないのです。
先日、
「……どう言う事だ」
「今の、公式メッセージの通りです。
わたしは、あなたたちHEAVEN&EDENの住人と敵対するタイトル“大地の民”からやってきた、スパイでした」
ご推察のとおり、VRMMORPG“大地の民”は、五年ちょっと前に公開された新作です。
メーカーも、HEAVEN&EDENと同じ、ヴィーナス・ソフトウェアです。
このふたつのゲームは、システム自体はほぼ同じです。
同じメーカーのゲームが、同じエンジンで作られているというのは、そう珍しいことでもないそうです。
話を“大地の民”にもどしますと、このゲームは地底世界が舞台となるめずらしいものでした。
そしてプレイヤーが地底世界に住んでいるーー住まわされている理由が、地上を支配する“天”の勢力に強いられていると、去年の今ごろに告知されました。
実は、わたしはそれよりもさらに数年前から、世界の真実を公式からのメッセージで知らされていました。
わたしがユニーク・スキルとして【金行の素養】を与えられ、ゲームの設定的に“命の剪除者”として任命された時でした。
そして今回、大地の民から、命の剪除者となった人たち全てに指令がくだりました。
“土行使いのユニーク・スキル保有者”を装って地上に出て、魔法文明の中核である生命樹を見つけ出せ、と。
生命樹の暗殺まで、誰も正体を見破られなければ確実に勝てたのですが……やっぱり、わたしと同じで耐えきれなかった“命の剪除者”が、どこかにいたのでしょう。
「わたしの名前を、
「ーーそれって」
わたしのほうは、同じように彼女らの名前を表示しました。
HARUTO
LUNA
GOU
KAI
みんな、血のように真っ赤なフォントで、表示されていました。
敵対プレイヤーである証拠です。
本来、他のプレイヤーやNPCに危害を加えたり、ものを盗んだり……何らかの犯罪行為だとか敵対行為によって染まる色。
彼らからみたわたしの名前も、同じ色です。
「そういうことです。わたし、皆さんの敵だったんです」
わたしは、海の消えた大穴に向かって歩きだします。
このまま、後ろから斬られるならそれでもいい。
どうせ、死んでも生き返って、地底大陸に帰還するだけですから。
けれど。
「……待て。何処へ行くつもりだ」
「一時間後、フェイタル・クエストがはじまれば、わたしたち、殺し合わないといけません。せめて、もう会わなければ」
「……何故、我々がHEAVEN&EDEN側につくと決め付ける?」
……、…………。
「……ぇ?」
「……要は、我々が“大地の民”側につけば、君と敵対せずに済むのだろう?」
「ちょ、そんな、なに、言ってーー」
「……ゲームと現実を混同するな。この世界と秤に掛けたのならーー」
「ーー自分は、君の仲間で在り続ける方を選ぶ」
わたしは、今、どんなマヌケな顔をしてるのでしょう?
「うわ、天然キザ。私ですら引くわ」
「まあ、こんなムラ社会根性の世界に未練なんて、一ミリもないしね。
……
なんとも、私達らしい選択じゃない。ねえ、
「そうだな。
ゲームシステム的に、俺達がそっちにつく事は出来るのか」
わたしは、コクコクと、ぎこちなく頷きました。
「……よし。アバターは作り直さずに済みそうだ」
「まあ、寝返った上で大地の民を勝たせた場合、元HEAVEN&EDENの俺達がどういう扱いになるのか、分かったものでは無いが……嫌ならゲーム自体を辞めて、他に移住すれば済む話だ」
「……決まりだ。
……。
「はい!」
わたし、今、地上に出てから一番の笑顔になったんじゃないでしょうか。
確かに、そうですね。
これ、ゲームの世界なんですもの。
行く先なんて好きなように決めればよかったんです。
皆さんに話して、よかったです。
そして。
「……貴方はどうする」
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