実況27 どうでもいい戦いに負けられないとは、これ如何に?(解説:KAI)

「本当の★の使い方を教えてやる。

 初手は全力を使

 おれが指示すると、

 

★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO(石化)

LUNA      虚偽のニブルヘイム(★7)

GOU(死亡)

KAI       戦う

MALIA(死亡)

 

「終わり無き、終わりを、知れ……」

 まだ震えた声ながらも、あの気取った詠唱を始めた。

 まあ、ヤツ程度のオツムであれば、おれが今言った言葉の、微妙なニュアンスくらいは察した事だろう。

 なお、このゲームのシステムの盲点か、メーカーが想定した仕様なのかは定かでは無いが、★を一度に使い切れないのは「★10をフルに持っている時だけ」だ。

 これは、★10消費のスキルが存在しないと言う、ゲーム上の仕様によるものだ。

 つまり、スキル自作の際にどれだけ調整して★10消費のものを作ろうとしても、★9に繰り下がるか、★11に繰り上がってコストオーバーの産廃スキルにされてしまうのだ。

 このお陰で、どんな大技を使っても必ず★1は残ると言う、あの面倒くさいルールが成り立っている。

 ただし、戦闘中に★潰しを喰らった場合、話は別だ。

 例えば今みたいに、★7にまで最大値を削られている場合、★7のスキルを使えば、一人でターンエンドが出来る。

 さて、いよいよ奴らのターンだ。

【パラダイス・ロスト】

 頭上で光が飽和。

 ぶっとい柱に足場ごと呑まれる寸前、おれはLUNAルナを抱えて思い切り跳んだ。

 いつ、心臓が破れるかもわからない。

 だが、アルス・マグナを切らせるわけにはいかない。

 この小娘を、殺られるわけにはいかない。

 その意地だけで、無理は通せる。

 ああ、もはや根性論だよ。

 ウロボロスとやらがおれたちを悠々と見下ろす、新たな足場に着地。

 お荷物の小娘を下ろして、大剣を構える。

 クールタイムが終わった。

 

★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO(石化)

LUNA      死の息吹(★4)

GOU(死亡)

KAI       瞬雷剣(★3)

MALIA(死亡)

 

 あの小娘は一転、ピタリと大魔法の詠唱を止めた。

 いいぞ。その通りだ。

 詠唱は

 例え前のターンに★7を溝に捨てようともな。

 ははははは、奴ら、必死に隠しているが、虚を突かれた表情を隠しきれていない。

 詠唱で釘付けとなる、と奴らが手前勝手に決めつけていた敵が、このターンを自由に動き回る恐怖とは、どれくらいだろうな?

 確かにこの小娘は、奴らよりも若い。事、このゲームでのキャリアからすれば、ひよっことすら言える。

 ここまでの動きからも、大魔法を捨てるなんて上等な判断が出来るなんて、想像もしなかっただろう。

 だがウロボロスの奴らもまた、このおれよりも尻の青いーーひよっこだったと言う事だ。

 この小娘ルナが、この程度の事は出来るかもしれない。それを読めなかった、物事をまだまだ上辺でしか見れていないひよっこどもだ。

 そしておれは、満を持して剣を振り下ろした。

瞬雷剣しゅんらいけん!」

 三人、仲良くお手手つないで飛んでるひよっこどもが、俺の技名を聞くや素早く飛び退いたーーその脳天にが落下、奴らにブチ当たった。

 これが俺の瞬雷剣。

 雷のごとき勢いで落ちてくる、氷の塊だ。嘘はついてないぞ!

 第一、殊更技名をーーこちらの手の内をーー叫んでやっている時点で怪しいと思え。

 お前らが勝手に「しゅんらいけん? らい、らい……らいか!」と勘違いしたのだろう。

 雷であればほぼ亜光速で襲ってくるから、あのタイミングの回避で正解だったが、思い込みとは恐ろしいものだ。

 それと、雷だの光のは、どうしてもコストが嵩む。光の速さと中級クラスの威力を両立するなら★3で済む筈が無かろう。

 ああ、そうだ。

 これは、だよ。

 大剣を魔法の杖として使っちゃいけないと、誰が決めた?

 古くから、雷だのビームだのをぶっぱなす“剣技”なんぞ、フィクションでは当たり前に描かれて来たものだろう。

 某エクスカリバーだとか、無双な稲妻突きだとかな。

 勿論、これらの屁理屈は、一つ一つは付け焼き刃のハッタリだ。

 だが。

 雷と称して落ちてきた氷。

 いかにも重戦士の記号で着飾った、魔法使い。

 積もり積もった視覚的な違和感とは、ほんの僅かだが、他人の感覚を蝕むものだ。

 その、ほんの数ミクロンの違和感が深層心理を乱し……いざと言う土壇場で明暗を分ける。

 人呼んで“ペテンの総合商社・KAIカイ”を目覚めさせてしまった、お前らが悪いのだよ。

 空中で大きく軌道を乱したウロボロスどもに、小娘の放った波動拳もどきが超音速でブチ当たった。

 魔術師の男の手を握っていた鉤爪女の右手が粉砕。魔術師は虚空に投げ出され、戻っては来なかった。

 女どもは大きく旋回し、どうにか体勢を立て直して、こちらへと猛進して来た。

 そして、おれ達の前へ怒り心頭と言った風に着陸した。

 次のターン、しくじったらどんな殺され方をするか、わかったものではないな。

 おれは、奴ら二人の動きを目に焼き付け、大剣を構える。

 

★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO(石化)

LUNA       死の息吹(★2)

GOU(死亡)

KAI        リフレクト・カウンター(★5)

MALIA(死亡)

 

 小娘の、ノロノロとした気弾が敵の女どもへ飛んでいく。

 余裕で躱せるだろうが、当たれば四肢の欠損するような弾が進行方向を漂っていて、プレッシャーが皆無とはいくまい。

 ああ、見える。

 奴らが波動拳もどきを意識するあまりに生じた、ほんの少しの筋肉の乱れ。本心の漏れ。

 だが奴らは、あくまでも平静を装い、シンメトリーな動きでおれに襲い掛かる。

貴女は私の鏡アナタはワタシの鏡……】

 絶影ぜつえいの速さでおれに襲い掛かる、二方向からの剣舞を、

 おれはそれを上回るはやさで叩き斬り、奴ら自身の血の池に捩じ伏せた。

 奴らの動きを自分の脳に焼き付け、身体が勝手に動くよう仕込む技。それが、このリフレクト・カウンターだった。

 女どもを斬り殺したおれもまた、両腕が内側からブチ壊れ、悶絶しながら大剣を取り落とした。

 だが、これでウロボロスは全滅した。

 おれ達の勝利だ。

 これで文句無いだろう、小娘が。

 

 大剣の斬擊が鈍重だと、誰が決めた。

 やり方スクリプト次第で、ショーテルよりも鉤爪さえも凌駕した速さで振るう事とて可能なのだ。

 ……このように、反動を無視すれば、な。

 

 ああ、死ぬ程痛い。

 

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