実況28 彼の悪い癖が出た(解説:GOU)

 現在、天地戦争の戦況は、かなり大地の民こちらが優勢となっていた。

 ゲームタイトルとしては、HEAVEN&EDENの方が圧倒的に古く、プレイヤー一人一人の経験値も同様である筈なのだが。

 率直に言って、士気の違い。この一言に尽きる。

 安定したJRPGの世界で十年以上、惰性で生きてきた“天”側に対し、自分で選んだゲームだとは言え、日の当たらない地底に押し込められていた、“地”側の若手プレイヤー達。

 また、俺達が散々メンバー集めに苦労したように、長年コミュニティが固定され、排他的な風潮が出来上がっていた。

 コミュニティ間の連携も取れなければ、後進も育って来なかった。

 彼等彼女等自身、自己研鑽もして来なかった。

 そして。

 戦況が進むにつれて、大地の民側に亡命するHEAVEN&EDEN勢も相当数出てきていた。

 ……大半が、俺達とはーーうちのKAIカイとは似て非なる。

 HEAVEN&EDENが敗戦後、全く同じシステムの大地の民に移住する算段なのだろう。

 何だかんだで、大地の民側としても、“天”の魔法との混成軍は強い。

 今の内に恩を売っておけば、再スタート時の人脈にもなる。

 俺達も常に最前線を走っていたが、日に日に、戦役が楽になっているのを感じる。

 だが。

 本当の勝負はここからだろう。

 次に俺達が地上へ出た時……いよいよ生命樹の射程圏内に入る事となる。

 “場所”そのものが敵となるトレント系エネミーの恐ろしさは、先の“人喰い庭園”で嫌と言う程思い知らされたが……今回はその規模が、現実の富士山程にも及ぶのだ。

 事実上、敵の本体は生命樹の顔面部分であるから、山に見立てて考えたとして、中腹程度だが……富士山の半分程度と言われても、何の慰めにもならない。

 

 俺は、魔法スクリプトの推敲ついでに、対“ウロボロス”戦のリプレイログも見直していた。

 俺は早々にリタイアしてしまった戦いだが、まさか勝てるとは思っていなかった。

 これが、あの男のーーKAIカイの本気か。

 確かに、これ迄に彼が俺達に言ってきた事の全てが、彼の戦い振りに詰まっていた。

「……いや、自分の推測が正しければ、これは彼の真の本気では無い」

 HARUTOハルトが、俺の感慨混じりの感想をあっさり否定した。

「……ようやく、まともにスキルを使わせた。まだ、その段階に過ぎないだろう」

 確かに、精々★5のスキルを使わせた、と言えばその通りではある。

 彼の持ち技にも、当然ながら★9の奥義がある事だろう。

 だが、俺としては、彼に★9を出させれば本気にさせたと言うのは違う気がした。

 そして、HARUTOハルトもまた、そんな安っぽい意味で言っているとは思えない。

「……そこで、このスクリプトを組んで欲しい」

 そう言って、彼は自分の仮想端末ウインドウを展開し、俺に向けた。

 そこに書かれた五行属性スクリプトの記述を、早速読ませて貰う。

 ……。

 ……、…………、…………、これ……は……。

 意味を理解した俺が、彼を見た。

 彼は、ただ静かに頷いた。

「……自分の読みが正しければ、これで彼は本気を出すだろう。

 生命樹戦の時が、丁度良い機会になる筈だ」

 あぁ……まただ。

 この男、フェイタル・クエストだとか、そのラスボスだとか、まるで見ていない。

「……意地でも、彼に勝とう」

 最早、目的も手段も滅茶苦茶だ。

 前のゲームでも、こう言う事を平気で仕出かしていた。

 そして今回も、俺が無茶振りをされる役回りと言う訳だ。

 この男は恐らく、特定の世界ゲームに対して執着が無い。

 かと言って、想いが何も無い訳でも、また無い。

 VRMMO制度の、この世界そのものを、その時その時で真剣に戦っているんだ。

 まだ2ゲーム目の付き合いだが、漸く俺にも解った気がするよ、LUNAルナ

 

 よし。

 見届けようでは無いか。

 ラスボスをーーこの世界そのものをダシに使った、HARUTOハルトKAIカイの勝負を。

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