実況04 とある実戦について(解説:土行使いMALIA)
そしてわたしは、他の人たちがロックされて使えない属性ーー土行を使えます。
そのかわり、他の人とちがって火・水・木の属性は使えません。
けれど、金行は使えます。
お察しのとおり、わたしは運営AIから【ユニーク・スキル】をもらったからです。
一個人のプレイヤーに、ある日突然、固有のスキルが与えられる。
このHEAVEN&EDENに限らず、どのゲームにも、そういうことがあるそうです。
……名乗るのが、遅れました。
わたしの名前は
わたしが火・水・木の属性を使えないのは、先ほど
魔法は思考の具現化であり、なおかつ「“天”から降りた奇跡」だと捉えている社会。
地面や大地に根ざした土行が“天”とは相反するもので、お互いのイメージをボヤけさせてしまうとされるのは、ひとひねりしたゲームシナリオとしては、まああり得ることだと思います。
ターン制バトルと、スキル自作システムの大体を説明したので、そろそろ実戦にいきましょうか。
サバト市街地跡。
ゲームの運営開始直後、早速破壊されてそのまま放置されていた廃墟です。
今回わたしたちは、この土地を復興して使いたくなったNPCからクエストを受けてきました。
昔、なにか大きなものに潰された木造家屋の残骸が並び、植物が命を営んでからみついている廃墟。
そこを抜ける一陣の風が、わたしの長い黒髪と、白と青を基調とした法衣のすそを、少しだけ引きました。
こんなときですが、わたしは風が大好きです。
なんだか、得した気分になるんです。
そして。
廃墟の陰から、トラックほどの大きさをした生き物が飛び出してきました。
それは巨大な爬虫類……白褐色の肌が所々黄土色に変色した、ヤモリです。
これが“競合種”。他のゲームで言うところのモンスター、魔物にあたります。
天の奇跡と繋がったのは人類だけではない。
こうした、動物もまた、捕食者の頂点に立ちたいと言う“祈り”を平等に叶えられる世界。
わたしたちは、すぐさま陣形を組んでヤモリと対峙します。
戦闘開始。
★★★★★★★★★★
【1ターンスケジュール】
HARUTO 微動回復(★1)→対象者:MALIA
LUNA 虚偽のニブルヘイム(★7)
GOU 戦う
KAI 戦う
MALIA デスサイズ召喚(★2)
今、
これは
この中で“戦う”と言うのは、スキルを使わないという意味です。武器で叩いてもいいし、極論、棒立ちでなにもしないのも“戦う”として処理されます。
「ーー終わり無き終わりを知れ」
わたしは手を横へ伸ばしました。
するとその手もとで光の製図がされます。
それは大鎌の形をしていて、急に具現化した金属の音をキンッと立てて、わたしの手におさまりました。
金行属性ではポピュラーな、武器作成の魔法です。
次に、頭上から暖かい光がおりて、わたしをつつみました。
つまり
このパーティの前衛は、大剣を構えた
そして魔法戦士であるわたしは、状況に応じて前衛と後衛を行き来することになります。
彼がわたしに自動回復をかけたということは、このターンは前衛として扱われているということ。
だからわたしは、まず武器を具現化させたのです。
さすがに名刀とか魔槍のようなレアものには遠く及びませんが、標準的な鉄装備くらいなら再現できますし、大抵の戦闘はそれで充分です。
それと、初動で★を使うリスクはありますが、こうした特大武器を普段はしまっておけるのは、かなり有利です。
これでターンエンド。次に★が補充されるまで、わたしたち三人はヤモリに向かって走ります。
ヤモリも、まっすぐ突進してきました。
けれどわたしたちが迎え撃つよりはやく、急カーブで廃墟の陰へ入り込みます。
やっぱり、ヤモリは素早いと思います。
石造りの教会だった壁にはりつくと、まるで地面のようにスラスラ走ります。
その先には、魔法を詠唱する
このままでは、後衛が危ない。
……はい、わたしたちのーー
彼が真正面からヤモリに突撃。
その身体は呆気なく弾き飛ばされますが、彼に構っていた一瞬で、わたしが追い付くのに充分でした。
わたしは、背後からヤモリに鎌を振り下ろしました。
大質量、かつ、鋭利な先端の刃がヤモリの肉を深々と引き裂きました。
濁った体液が異臭を放って飛び散ります。
ヤモリは大きく旋回して、尻尾を振り回して来ました。
わたしはこれを跳んで回避。他の皆さんも避けたのを、目端で確認しました。
競合種や敵対NPC、そして敵対プレイヤーの★を、わたしたちが見る術は基本的にありません。(それ専用の魔法を使えば別ですが)
だから、どれが敵のスキルで、どの程度消費したのかは、これまでの経験から何となく推測するしかありません。
あと、敵が少ない場合、注意しないといけません。
大勢で取り合っていた★を独り占めしている……ひとりで強力なスキルをたくさん出せるからです。
更にヤモリが真上に跳躍。
さすがゴーレムです。タフだと思いました。
「奴のターンは終わったはずだ」
さすがベテラン、彼の読みはかなりの精度で当たります。
そして、わたしたちのターンです。
★★★★★★★★★★
【1ターンスケジュール】
HARUTO 筋力増強(★5)→対象者:KAI
LUNA 詠唱中
GOU 風読み(★2)
KAI 戦う
MALIA ストーンショット(★3)
筋力増強の対象がわたしではない。
このターンは前衛を他の二人にまかせて、わたしは援護するように、と彼は言ってるはずです。
このパーティは、
無事、バフ魔法によって強化された
それまで受け流すのが精一杯だったヤモリの一撃をしっかりブロックし、返す刃で肉を切り裂きました。
着実に、全身に損壊が刻まれていきます。
衝撃が地面を伝い、わたしの足までビリビリくすぐるくらいです。
鉄骨が丸々刺さったような、凄まじい矢です。いや、矢というよりもはや、長槍です。
なんでも“風読み”とは、射ようとしている矢の軌道を精密に表示してくれるそうです。
スキル自体は低コストながら、ゴーレムの腕力と弓の威力で消費以上のダメージを出す。すごく、考えていると思います。
そして、逃げようとするヤモリを正面にとらえつつ、わたしはひざまずいて地面に手をあてます。
これがわたしのーーというより、土行属性魔法に必須なトリガーアクション“接地”です。
自分の身体のどこかが接触している、土行属性の物質を変化させたり操作するのです。
わたしのストーンショット行使に呼応した地面が砕け、無数の石の弾丸となってまっすぐヤモリを撃ちます。
やはり、攻撃魔法が“上”から落ちてくるのが基本の世界のAIは、横ベクトルに飛んでくる石弾を避けるのが苦手なようで、まともに当たってくれました。
衝撃で、ヤモリが横倒しになりました。
★★★★★★★★★★
【1ターンスケジュール】
HARUTO 微動回復(★3)→対象者:KAI
反射神経増強(★4)→対象者:GOU
LUNA 詠唱中
GOU 戦う
KAI 戦う
MALIA ストーンショット(★3)
あとは押しきるだけです。
わたしは引き続き、ストーンショットを撃つために、大地に手を、
ヤモリのしっぽが、突然切れました。
誰も、そこを攻撃したわけではないのに。
「馬鹿野郎! 伏せろ!」
えっ、えっ?
彼はわたしを突き飛ばすと、そのまま覆い被さってきました。
そして。
乾いた爆音。
生臭い煙が放射。
「ヤモリは尻尾を“自切”するんだよ! そして、爆発する!」
……わたしのせいです。
状況が変わりました。
★★★★★★★☆☆☆
【1ターンスケジュール】
HARUTO 微動回復(★3)→対象者:KAI
LUNA 虚偽のニブルヘイム発動
GOU 戦う
KAI 戦う
MALIA グラウンド・クラッシュ(★4)
わたしは彼にかばわれている間も、地面に掌を接地していました。
おなかの底に響く、鈍い音と振動。
そして、ヤモリの足元が間欠泉のようにふき上がると、できた落とし穴にヤモリが落ちました。
そして。
どこか怒ったような声音になっていた
ーー終わり無き終わりを知れ。
ーー生命の終焉、封縛がもたらせし永劫を知れ。
ーー其は彼の地に偽られし墓標に在らん。
ーー虚偽のニブルヘイム!
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