♪31

「彪河〜、どっか行こ〜!」

「今の俺の状況を見てそれを言うか。」


今日も今日とて俺の部屋。いつものようにくつろいでいる桜花と必死にノートを書き写している俺。


「何で勉強すんの?中退ってことにしたら多少頭悪くてもしょうがなくね?」

「そういうのが嫌なんよ。必要最低限の学力は欲しいから。」

「でも、たまには気晴らしが必要やで。」

「うっ。」


桜花は知らない。俺がなぜ学校を辞めたか。


 学校に行っていた1ヶ月間。それだけで俺の人生観は変わってしまった。毎度のように孤立する俺。そんな俺に構ってくる桜花を見て、何人かが俺に嫉妬する。そして陰口の嵐。次第に変な噂が広まって、ついには桜花のことまで酷く言う奴らまで出てきた。


 俺は悟った。俺は桜花と違う世界の人間だと。桜花にこれ以上迷惑はかけられない。


 俺はその現実から逃げたくて、学校を辞めた。


 そんな俺がまた人の世界に足を踏み入れるなんて無理だ。


「なんかさ、難しいこと考えてる顔してるけど、世界ってそんなに難しく出来てないよ。小さくて小さくて、そんでもって濃い人の中で生きてるだけ…」


彼女は知らないのだろう。世界は欲望と嫉妬でできていることは。誰もが自分より下に見ているから「あんな奴が」って言葉が生まれたんだ。


「だからね、また一緒に外の世界見ようよ。」

「………」


桜花から放たれる眩しい笑顔。その目に曇りなど1つもない。


「………考えとく。」

「うん!」


やはりこの笑顔には勝てそうにないな。


『誰もが思い通りにならなくて

 その事にまたイライラして

 他の誰かのことを傷つけたくなる


 嫉妬の矢印は

 必ず誰かに向いていて

 誰も信じられなくなって

 そのことから目を逸らした


 あぁまた僕は1人さ

 こんなふうに書く歌も虚空に消えてく

 そんな僕に手を差し伸べてくれた

 君にかけられる言葉ばかり気にしてる


 きっと一緒にいない方がいいね

 君とは住む場所が違うから

 そっとテーブルに書き置きして

 君の過去の人になろう



 誰もが同じことを見てなくて

 その事をずっと知らなくて

 他の誰かのことを傷つけたくなる


 欲望の眼差しは

 必ず誰かに向いていて

 誰も信じられなくなって

 そのことから目を逸らした


 あぁまたその繰り返し

 行き場のない言葉だけが重なってく

 そんな僕に手を差し伸べてくれた

 君に届きそうな言葉ばかり気にしてる


 きっと一緒にいない方がいいね

 君とは住む世界が違うから

 触れたくなるような笑顔でさえ

 黒く塗りつぶしてしまわぬように


 たった一つ たった一人 たった君だけ

 傷つかないことそれだけを願っていた

 僕がもし 君のこと 染めてしまったら

 きっと君は堕ちてしまって

 君が君でいられなくなるよ

 だから僕は君を消さないために

 僕という存在に消しゴムを擦った』

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