♪37

 思い出したのは歌詞カードだけではない。それは押し入れの奥に隠してある。


「あった。」


ホコリの被った箱の中に入っているのは、桜花からの手紙だ。


 幼稚園の頃だっけか、桜花のマイブームが手紙で、毎日のように何かを書いてきた。だいたいのことが「大好き」とか「将来結婚しようね」とか。今見たら赤面するような内容ばかり。でも、『1番一緒にいる人が好きな人』になりやすい幼児なら、よくあることだ。


「これは、見返すと俺でも恥ずいな。」


同じ内容のものがだいたい4セットずつぐらい出てくる。それにしても、何通あるんだろう。この箱なかなか大きいはずなのに、パンパンだ。


「あっ!」


その手紙は折り目がついていて、それに沿って折れば、紙飛行機になった。


「懐かしいなぁ。」


その日は、幼稚園の行事で昔遊びのおじいちゃんが来た日だった。そのおじいちゃんは折り紙が得意で、鶴を何個か繋げて折ってたっけ?それで、1番簡単な紙飛行機を飛ばして遊ぶってことになって…


「これを窓から投げ込んできたもんだから、びっくりしたわ。」


その日家に帰ったあと、いつものように呼ばれて、窓を開けた瞬間、紙飛行機が飛んできた。


「2人してめちゃくちゃ笑ったなぁ…」


窓を見る。その窓はもう静かだ。


『手紙の中の登場人物AとBは

 いつも楽しげに笑っていて

 記憶の中に押し込んだままだった

 遠い春の日の思い出


 知らないほうが良かったこともあった

 見ないほうが良かったこともあった

 だけど君の笑顔それだけは

 目を逸らせそうになかった


 この思いが飛んでいくように

 手紙飛行機を折るよ

 君に届くか分かんないけど

 雨も風も越えてって

 遙か遠くまで

 君の軌跡を探しに行くよ 手紙飛行機



 手紙の中の登場人物AとBは

 いつも楽しげに過ごしていて

 ホコリの被った押し入れの中から

 僕のことを呼んでいた


 消えない方が良かった思い出たちに

 「バイバイ」それだけを呟いて

 だけど君の笑顔それだけは

 忘れられそうになかった


 この記憶が風化するまでに

 手紙飛行機を折るよ

 誰かの記憶に残るために

 上昇気流に巻き込まれ

 遙か遠くまで

 夢と現実の狭間のところ 探しながら



 僕は何も信じられなくなった

 君以外のことを

 僕は偽ったこの世界が嫌いだ

 もちろん僕のことも


 この思いを忘れ去るように

 手紙飛行機を折るよ

 君に届かないことを信じて

 揺れた文字で紡ぐのは

 本当の言葉

 君の軌跡をなぞっていくよ 手紙飛行機』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る