俺の君への鎮魂歌

136君

♪1

 桜が舞い散るこの日、俺はあることを心に決めた。それは、『何があっても、俺は趣味に生き、趣味に死ぬ』こと。


 俺はこのことを幼馴染の桜花に話した。すると、


「彪河が言うんなら、やってみたらいいんじゃない?無理なら私が支えてあげるから、いつでも言ってきなよ。」


そう優しく言ってくれた。


 桜花は俺にとっての唯一の理解者であり、友達である。幼かった頃はずっと2人で遊んでいて、小学生になってもその関係は変わらなかった。中学に入ってからは、少しずつ距離が開き始めたが、隣の家なので行くのも帰るのもタイミングが一緒。登下校中は自然と喋るようになっていた。


 そして、この春からは俺たちは高校生。近くの高校に進学した俺たちだったが、俺は早々に学校を辞めて、絶賛引きこもり中である。それでも、俺はスマホの通知をoffにしない。唯一の繋がりが無くなるのを俺は恐れた。それこそ桜花である。こんな俺にも愛想つかさず相談に乗ってくれる。まったくいい幼馴染だ。


 彼女が俺に教えてくれたのは、勉強ももちろんだが音楽である。元々あまり興味がなかったが、ある日彼女が聴かせてくれた曲に俺は感動した。他の人には平凡な歌かもしれないが、俺には何か新しい感情が生まれたようだった。


 そして、俺は曲を書くようになった。少ないときは2週間に1曲。多いときで1週間で5曲ほど。何曲書いても、俺の理想には程遠いポエムが出来上がるだけで、最終的には丸めて捨てるだけだった。そして書いていくうちに、やっとしっくりくる曲ができた。俺はすぐに桜花に連絡したが、一向に返事が返ってこない。トーク画面を何回も確認したが、既読のマークがつかない。何かあったのか、俺は母さんに何か知らないか訊くため、久しぶりに部屋を出た。


「母さん、久しぶり。さっき桜花にRINE送ったんやけど、中々既読がつかないねんけど、何か聞いてない?」

「彪河は知らないか…。桜花ちゃんはね、事故に遭ったんだって。」

「そういや、今日の朝サイレンの音が五月蝿かったな。それで?」

「それで…亡くなったそうよ。」

「はぁ?嘘つくんじゃねぇよ!」

「嘘じゃないわよ!私だって、いつ彪河に言おうか悩んでたんだから。桜花ちゃんのお母さんから連絡きた時びっくりしたもの。」


母さんは泣き崩れる。信じられない。信じられるはずがない。昨日までいつものように連絡をとっていた桜花が、こんなに簡単に居なくなるなんて。だから涙は出てこない。まだ、信じていたいから。


 部屋に上がって窓を開く。久しぶりに新鮮な空気が入ってきて、少し新しい気持ちになれる。


「桜花!」


昔のように呼んでみる。返事はない。いつもならこの時間は部屋にいるはずなのに。母さんの言ったことは本当なんだろう。なのに、悲しくはない。俺ってこんなにも薄情なやつだったのか。俺にとって桜花はそれほどの存在だったのか。俺はテーブルの上のメモに視線を落とした。



『キミニアイタイトイフ

I'll give a present for you

ズットキミニダケオモフ

ソウオモッテユメヲミル


いつまでもずっと信じてるって

手を繋いだ

こんなにも日々が鮮やかになって

僕は知った

愛し方 愛され方 そして 触れ合い方


過ぎ去った日々が

こんなにも愛おしくなって

忘れたくないの

頭が弾けそうなの

シアワセが

遠く離れたキミへ

届くように歌ふ

I'll give a present for you



キミニアイタイトイフ

I'll give a present for you

ズットキミニダケウタフ

ボクノオモイヲウタフ


コノミチノツヅキガ

モシモクライセカイナラ

ヒノアタルトコロマデ

キミノテヲヒキイコウ


渇いた希望が崩れていって

イマを知った

儚い夢でも見せてくれて

嬉しかった

君がいない世界なんて信じられない


ちぐはぐな言葉は

きっと届いていなくて

ただあるだけなの

無駄だと解ってても

トモダチは

ずっとトモダチのままで

いつでも思い出す

キミのこと思い出す



旅立つ君が

僕に歌を教えてくれて

きっと忘れないの

ずっと忘れないの

不器用で

楽器も弾けなくたって

僕は君を描く

I'll give a present for you



幾つもの 幾千もの

光を映したこの瞳に

描かれたフィルムは 溢れてしまいそうで

言葉にできない ほどの思い

いつかまた巡り会うために

この歌に乗せて


キミニアイタイトイフ

I'll give a present for you

マタキミニアイタイトイフ

This is a present for you』



桜花のこと考えて、こんな歌詞書けんのに。

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