♪44
いつぶりだろうか。こうして食卓を囲むのは。母さんの調理している音と、五月蝿い換気扇の音だけがこのリビングを包み込む。最近は聞いていなかった音だらけだ。
「ねぇ、母さん。音楽やりたいって言ったら止める?」
「止めはしないし、でも、そんなお金ある?」
「だよね。」
そう。音楽をやるためにはお金がいる。ボカロ曲を作るにしてもソフトがいるし、バンドを組もうと思ったら、それこそウン10万かかるだろう。
「じゃあ、作詞家になりたいって言ったら?」
母さんが包丁を握る手を止めた。
作詞なら今の時代スマホ1つあればできるし、なんなら全世界に発信したりもできる。桜花に作詞を教えてもらってから、そんな儚い夢を描くこともあった。でも、こうやって言葉にしてみると、難しいものだと感じる。
でも、なりたい。桜花が俺にくれたものを遺したいから。俺はここにいることを、目一杯生きていることを、見てて欲しいから。
「………はぁ、それで稼ぎになってくれたらいいんだけどね。まずは趣味程度にやるんならいいわよ。」
「それって…」
「止めないってこと。応援もしないけど。とりあえず、自分の力でできるところまでやってみたら?」
そう言って、母さんは包丁を動かし始めた。
『何回見てきただろう
出来もしない夢のことを
折角のプレゼントも
開けないままでさ
何回数えただろう
君と肩を寄せあってさ
夢を描く日々を
そんな夢を見ることを
疲れたんだよ
うんざりしたんだよ
いつも いつまでも
引きずったままの僕のことを
忘れたんだよ
写真には残ってるけど
君と手を繋ごうとしたその理由を
見ててよね 見てるよね
君のことを繋ぎ止めるように
書くペン先を
見ててよね 見ててよね
ありのままの僕を
何回呟いただろう
君の名前3文字を
折角のプレゼントも
浪費し続けてさ
何回諦めただろう
君と紡ぐ物語を
夢を描くことを
そんな夢を見ることを
知ってたんだよ
分かってたんだよ
いつも いつまでも
芽なんか出ない そんなことを
惨めなんだろう
ノートには残ってるけど
君に追いつこうとしたその理由を
見ててよね 見てるよね
君のこと忘れないように
書くペン先を
見ててよね 見ててよね
僕の夢の終わりを
見ててよね 見てるよね
僕がここにいることを
遺すペン先を
見ててよね 見ててよね
この物語の中心は君なんだから
見ててよね 見てるよね
君が教えてくれたこと
全部のせるから
見ててよね 見ててよね
僕の夢の果てを
君と歩んだ道を
この1枚の紙を』
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