♪35

 どうやら俺は寝てしまっていたようだ。


 季節は雨が少しずつ多くなってくる頃。今日は珍しく晴れていて、暖かい光が窓から差し込む。


「おはよ、起きた?」


カリカリと勉強している桜花。その横には物理の問題集があって…


「もう勉強始めるんか?」

「早すぎることはないやろ。」


今日は6月の最初の週の日曜日。いつものように俺の部屋に来て、勉強している。


「中間テストもそんな悪かったわけちゃうやろうに。」

「それでもね、こんな自堕落で、抜けっぽくて、頭悪そうな中退くんの幼なじみがいると、なんかあった時助けてあげなって思うわけですよ。あ〜!私やっさし〜!」

「最後の一言がなけりゃ、ただのカッコいい名言になってたのにな。」


そんなことを言いつつ、またベッドに横になる。ん〜、この柔らかさには勝てんの。人類はなんて罪なものを作ったんだろう。


「はぁ〜、言ったそばから。彪河も勉強くらいはしっかりしたらいいのに。」

「面倒臭い人間関係からも、ただこなすだけになりつつある勉強からもオサラバできるのに、わざわざまたあの地獄に戻れってのか?ごめんだね。」


そうだ、俺の夢の中の方がおかしかったんだ。俺たちはこれくらいの距離がちょうどいい。そんなことを思いながら、また瞳をとじた。


『夢物語なら良かったと

 今になって思う

 何気ない日常の檻の中で

 花弁を集めるように

 歩いてきたんだ

 名前もない毎日を


 ずっと探してきた

 君を傷つけずに過ごす方法

 だけどそんなことばかり考えたら

 抱きしめ方しか出てこない


 真っ白なキャンバスの上に

 君という絵の具を垂らして

 かき混ぜてみる

 真っ黒な僕の心に

 最期の選択をくれる

 「私の心をかき消して」



 線香花火のようにポツンと

 落ちて消える

 小さな世界で生きてるんだ

 満足出来ないまま

 僕らは見据える

 不確定要素の道を


 ずっとずっと前から

 知らないフリをし続けてきた

 目の前に出された料理を見ると

 傷つけることしかできない


 ドス黒い理性の上に

 被さったタッパーの蓋は

 風に飛ばされ

 溢れそうなこの気持ちを

 1ミリもこぼさないように

 目を閉じては微笑んだ



 分かっていたんだ

 抗えない欲望と

 感情に負けそうになることは

 僕の心は

 面心立方格子みたいじゃないから

 崩れ去って 傷ついて

 深く染み込む


 分かり合えていた世界線

 僕らの足取りは平行線

 だったら良かったのにな


 真っ白なキャンバスの上に

 君という絵の具を垂らして

 かき混ぜてみる

 渦巻く欲望気取った感情

 もう忘れ去った友情

 あとは何がある?

 真っ黒なキャンバスの上に

 君という絵の具を垂らして

 塗り重ねてく

 少しずつ君の色に

 染まっていく画面には

 僕の心はない』

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