♪12
「あっ!」
今日もまた引き出しを漁っている。
「懐かしいな。」
出てきたのは1枚の写真。小学校の卒業式の写真だった。思春期に入ったからか、お互いに恥ずかしがってそっぽを向いている。
「桜花、耳真っ赤やな。俺もやけど。」
写真を愛でていると、おかしくなってきた。何故か笑いが込み上げてくる。
「こんなことしてるのって、ストーカーみたいやな。」
ストーカーする相手はいないけどって言葉は出さずに。そんな言葉言ったら、泣きそうになるから。
何度も突きつけられた現実にも、もう慣れた。何度も名前を呼んで、返事がなくて、そして落ち込む。涙は出ない。その現実にも慣れた。
外ではモズが鳴いている。桜花の声の真似をしてほしいとは思わないが、たまにそう聞こえてくるような気がした。
気づけばもう日が沈みそうだ。俺はペンを手に取る。桜花に貰ったシャーペンを。
『「コンビニまで一緒に行こう」って
君は僕を呼ぶ
あの卒業写真の距離は
どこに消えてったのかな
少し乾いた道を 2人手も当たらない距離
歩幅合わせたそのリズムで 僕の鼓動が聞こえてくる
恋人は1番横顔を見た人だって
誰かが言っていたけど
多分それは妄想だろうと
心が言っている
「遊びたいから玄関開けて」って
君は僕を呼ぶ
男とか女だとか感じない
もう慣れてるから
少し湿った息で 小指触れ合わせながら
言葉もいらないこの空気 居心地が良くて泣きそうで
笑った顔も泣いた顔も知ってるけど
怒った顔はまだ
多分それはほかの誰かに
見せるものなんだろう
「漫画貸してほしいから開けて」って
君は僕を呼ぶ
僕の本棚に何があるか知ってるし
もう慣れたから
少し湿った指で 背表紙眺めながら
目を合わせずとも分かるその感情 今でも仕草を覚えている
恋人は1番横顔を見た人だって
誰かが言っていたけど
全部仕草を覚えてる人だって
僕はそう思う』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます