第6話 2年3組の友達➂
「彼方くん、ギリギリだったけど何かあったの? 今日は先生が来ない自主マラソン日だったからよかったけど」
「いや、ちょっと着替えるのが遅れただけで問題ないよ。ありがとう委員長」
校庭に下りると、競争している男子や和気あいあいと話しながらゆっくり走っている女子の姿が見えた。
靴ひもを固く結ぼうと花壇の影に座ると、そのすぐそばで如月さんが縮こまるように体育座りをしていた。
「また会ったね。自由すぎて田舎って感じでしょ? サボってもいいんだよ、彼方くん」
やる気無さそうにしていた如月さんを委員長が強引に誘って3人でペースを合わせてゆっくり走り出した。
「俺は結構こういうの好きかも。ホント自由で」
「自由すぎるってのもね……委員長的には困るんだよね。ちらほら来てない人いるし、後で怒られるの俺なんだよな」
「そ、そうだね」
改めて周囲を見てみると確かに2年3組の生徒全員は居なかった。まだ顔が分からない人がいて誰と誰が居ない、ってのは完全には分からないけど、安土さんと碇くんは見当たらない。
「そういえばクラスのみんなとはだいたい話した?」
「……私は話したよ。彼方くんも美化委員に入りたいって話した。あとアネモネの話もした」
「そうなの彼方くん? 意外だな~」
「いやいや! そんな話してないから! ちょっと植物の話しただけじゃないか……。美化委員に入りたいなんて……」
「京香さん、彼方くんをあんまり困らせちゃダメだよ」
「……はーい」
「からかうのはもう少しクラスに慣れてからにしないとね!」
「え……?」
「うそうそ! 冗談だよ。で、あとは誰かと話した?」
俺は安土ほたる以外の少しでも話したことのある人を指を折って数えながら委員長に伝えた。
「なるほどなるほど! 太志くん、若葉さんと双葉さんに耕太くん、……圭介か。じゃあできる限り残りの友達をここで紹介というか簡単に話すよ」
「助かるよ委員長」
委員長は周りで走っている人を短くまとめて俺に教えてくれた。
「まず、凄い勢いで前を走ってて耕太くんがいる5人グループのところ。先頭を走ってるのがスポーツ万能、成績優秀の
「……女子みたいなストレート茶髪。ジャンプ主人公みたいな顔」
委員長が説明した後にすかさず如月さんが如月さんなりの補足説明を入れる。
「その次を走ってる右がサッカー部エースの
「……ツンツン頭。いつもケラケラ冗談ばっか言ってる」
噂話をしているのに気づいたのか、中村くんがこちらに列を外れて走ってきてくれた。
「転校って大変だよな! 彼方はさ、雰囲気だけどさ、早いうちにこのクラスに馴染んでいけると思うんだ俺! よろしくな!」
「ありがとう、中村くん!」
彼の目は純粋無垢な子供のように透き通っていた。きっと彼の言動全てが本心からくるものだろうと思い、俺は勇気をもらった。
「そしてその左はバスケ部の3Pシューターの
「……細メガネのっぽ。自分が絶対正しいと思ってるけど普通に価値観ズレてる変人」
「そして耕太くんの隣が陸上部の
「……遠くから見ると男の子みたいだね。顔も……いや、これはさすがに怒られちゃうかな」
「……だいたい分かったよ。あと如月さんの補足説明は普通に全員から怒られると思うよ」
「ごめん。次は気を付ける」
太志くんがそのグループを追うように大汗をかきながら必死で走っていた。そういえば、前におにぎりをくれたときにダイエット中だと言ってたっけ。頑張り屋なんだな。
「あとは……さらに向こうでゆっくり歩いて喋ってる、ひばりがいる女子4人グループ。一番右が
「……ポニーテール清楚。多分コスプレ好き」
「その隣は剣道部で主将をやってる
「……イケメン美女。男子からよりも女子からモテる。きっとヤバイ性癖あるよ、じゃないと釣り合わない」
「……で、凪沙さんのすぐ左隣が
「……ちっこいけど強い。小学生みたい」
「さっきより悪化してない?? ねえ委員長、如月さんっていつもこうなの?」
「残念ながら通常運転だよ、少し変なところあるけど表裏がなくて悪気は無いんだ。許してやってくれ」
「そうなんだ……」
話しながら走っていたためだいぶ息が上がってしまい、俺たち3人は少し休んで水分補給をすることにした。
水飲み場に向かうと、既に何人かが近くに座り込んでいて休憩しているようだった。
「あ、彼方くん、あそこは若葉さんと双葉さんが座っている近く。あのシミだらけの体操服を着て今笑ってる人は……」
「
「如月さん仲良いの?」
「いつもお花の肥料とか作ってくれるから……」
「そうなんだ」
如月さんは先ほどの紹介とは真逆に、少し微笑みながら彼のことを丁寧に教えてくれた。
「で、賢人くんと話しててタオル頭に巻いてる子が、」
「そっちは
「え……?」
大人のモデルというよりかは幼げさが少しあるアイドルのような雰囲気。見た目以外のことを何も知らなければ、モデルやアイドルをやってますと言われても信じてしまうだろう。……俺は実際そうだと思ってたというのは内緒にしておこう。
「京香さんと弥生さんはたしか親戚なんだっけ?」
「うん、そう。ちょっと遠い親戚」
「そう言われてみれば……似てる。なんかいろいろと」
俺はもう一度校庭にも目を移しながら2年3組の生徒、俺を含めて計20人にもれがないかを確認する。
ここに来ていない碇くん、安土さんを除いて……計17人。1人足りない計算になる。
「今日体育に来てない碇くん以外にまだ誰かいるの?」
「あと2人いるよ」
「え? それだと21人にならない? このクラスって20人だよね」
「「…………」」
委員長と如月さんは何も答えてくれないままお互いに顔を見合わせていた。
「田舎だからね。名簿表とかいろいろと間違い多いんだよ。で、そうそう~あと2人のうち1人は多分保健室かな。いつも体調が悪いらしくてね。名前は
このようなことはもう初めてじゃない。今回はなんとなくだけど分かった。これを今ここで口にすることは委員長との約束があるから、それはしない。……それと碇くんの忠告もあるし。
俺は少しずつ違和感のピースを組み立てる。
――おそらく安土ほたるという女子は、
2年3組の生徒としてカウントされていない。
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