第18話 さくらと修人➁

「墓標だと? じゃあ、こいつらは祭りでキャンプファイヤーでもしてるってわけじゃないのか」

「そ! それにそんな細部まで描き込まれた絵なのに人の顔が全く描かれていないなんておかしいでしょ」

「たしかに……なら、コレは文章にあった争いのシーンを描いたものだろ。挿絵が最後に来ただけだじゃないか」

「う~ん、彼方くんは何か分かる?」


 写真を顔に近づける。正解のない間違い探しをしている気分だ。


「……この手の暗いもやみたいなのは?」

「そう! それよね! みんなが持ってる……? ナニカ」

「今日はもういいだろさくら。夜も遅いし、山を降りよう」

「そうね……」


 ………………。


 藁人形を元にあった鳥居に立てかけるように置き、俺たちは山を降りた。

 街灯が多い交差点付近で塾があると言った花笠さんはそこで分かれた。


「俺と真司は昔から正反対の意見でさ……毎回どっちが正しいだのなんだのって喧嘩して……それをさくらが中立になって止めるってのがいつもの流れだったんだ」

「じゃあ、今回のも……」

「あぁ。けど。真司が……死んでから、さ。気づいたんだよ」

「?」

「俺はいつもどっちが正しいとかなんてどうでもよかったんだなってさ! 真司と言い合いをしてる時間が楽しかったんだ! バカだよな……さくらまで巻き込んでさ……」

「まだ……遅くないと思うよ!」

「何でそんな無責任なこといえんだよ!」

「さくらちゃん……頑張ろうとしてたじゃん。それまでは中村くんと美和くんの中立の意見しか言えなかったのかもだけどさ……さっきのさくらちゃんは必死になって何かを掴もうともがいてたじゃんか!」

「……!」


 いつも強面でいた美和くんが泣いていた。


真司あいつ……死ぬ前によぉ、さくらのこと頼むって、自分がこれから死ぬの分ってたみたいに俺に……っそう言ったんだ……!」

「大丈夫だよ、美和くんなら」


 凪沙に連れられた旧音楽室で美和くんの話を聞いた時、てっきり他人の死なんて気にしない、冷徹で自分の意見を曲げない男なのだと少しだけ思っていた。

 それは俺の最悪の勘違いだった。

 誰よりも中村くんの死を悲しんで……悔しいと思っていたんだ。それをきっと「犯人」という形あるものにぶつけたかったんだ。

 中村くんもさくらちゃんも美和くんも……みんなみんな羨ましいくらい優しいんじゃないか。


「しばらくは、さくらに振り回されるとするよ………」

「お似合いだね……!」

「バカが、真司にもそう言われたよ」

「ははっ! やっぱり!」


 

 長い、濃い一日がやっと終わった。

 みんなと話してやっぱり気になるのはあの藁人形と「安土姫ノ神」という本の内容と絵だ。


 ――2年3組。いつ起こるか分からない厄災。


 体は疲れているはずなのに全く眠れない。

 精神が擦り減っていくのが自分自身で分かる、不安と恐怖が渦巻く夜になった。

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