第17話 さくらと修人➀

「あれ、花笠さん?」

「彼方くんじゃん」

「巫女さんのアルバイトって、もしかしてここだったの?」

「いや……修人の付き添い、かな?」


 ガサガサと道なき道から現れたのは美和くんだった。


「お前か」

「美和くん! こんな時間に2人で何してたの?」

「安土にやらせてた儀式……そこで使ってたっていう人形みたいなもんを探してたんだよ。少し調べようと思ってな」

「え!? 美和くんと花笠さんってそんなのは迷信だ! みたいな感じじゃなかったっけ?」

「っうっせぇ! さくらこいつがどうしてもって言うから、こっちはシュート練習ぶち抜いて来てんだぞ!」

「わ~ん、こいつって言われた~! 酷いよねぇ修人! 私たちって付き合ってるんだよ?」

「ええええ?!」


 久しぶりに大きな声が出た。

 ――そんなにおかしなことじゃない。

 中村くんが死んでから少し「普通」というものを忘れていたのかもしれないと俺は思った。

 これまでのイレギュラーを全部取っ払ってしまえば、俺たちはただの田舎の高校生、青春真っ最中なのだから。


「こんな時に恋愛ってどうなのってね。彼方くんも思うでしょ?」

「いや、そんなことないよ!」

「やっぱり、真司の言った通り優しいね」

「え?」

「私と、修人と真司はね……ずっとずっと前から友達だったんだよね」

「おい! そんなこと話さなくてもいいだろ!」

「う・る・さ・い!」


 花笠さんはあっちで聞いててと美和くんに合図する。


「真司はとにかく明るい奴でね。あんなことがクラスで起きてさ……クラスが壊れそうな時もいつも笑ってさ、、高校生活楽しもうぜって言ってたんだよね」

「確かに……一番明るかった」

「私たちのことも応援してくれて……それで……」

「……」

「私は笑うことにしたの! いつか……真司の分も修人と、クラスのみんなで!」


 強引に両手で口角を上げて作ったその笑顔から全部を汲み取ることができた。

 2人だけじゃない。

 クラスのみんなが今日も笑顔で俺に挨拶してくれて、いろんなことを話してくれるのは、ただの強がりなんかじゃない。みんながみんな、それぞれの覚悟を決めているからだと。

 南姉妹は過去に一度失った幸せを取り戻すための覚悟。

 夜と凪沙はどんな逆境でも大切なものを護るという覚悟。

 花笠さんと美和くん……それと中村くんはきっと……笑いあえる「今」をいつか手に入れるという覚悟だろう。


「そういえば、藁人形探してるって言ってたよね? コレ俺が持ってたんだ」

「「!?」」

「ちょっと間違えて持って帰っちゃったようでさ、」

「よこせ!」


 美和くんが奪うように持っていた藁人形を取った。


「ほらよ、さくら」

「ちょっ! 急に投げないでよ。コレ、持っててさ。変なこと起きなかった……?」

「この藁人形のことは安土さんから聞いたよ。たしか、生と死を変換して、」

「そうじゃなくて! それ以外!」

「え……あぁ。夕方、図書館で少し調べ物をしてた時にこの藁人形からいきなり液体が溢れだしたんだよ、それで何かヤバいと思って夜だけど急いでここに戻しに来たんだ」

「液体?」

「今は何故か乾いているけど……ね」

「そう。ほらっ! 修人、やっぱり安土姫ノ神には!」


 「安土姫ノ神」という単語にビクッと体が震えた。やはり委員長たちだけじゃなくて、あの本の内容は全員知っていたのか。それで、知ったうえで……。


「さくら、続きってのはだから何なんだよ! あの話はおしまい、で終わってるだろ」

「違う違う! 文章だけじゃないよ! 彼方くんも図書館でソレ見てたんでしょ?」

「う、うん」

「じゃあ見たでしょ? 最後のページをめくったところに絵が描かれていたのを!」


 おしまい、と書かれていたページをさらに開くとそこには確かに意味深な絵があった。

 表紙に載っていた着物姿の女はどこにもおらず、大勢の農民が祭りのように大きな火を囲んで何かをしているような絵。農民の表情はうまく読み取れない。全員の手に何か黒い靄のようなものが描かれていた。


「町の人達がお祭りをしているような絵?」

「それだけど違う! アレは多分お祭りじゃないよ」


 最後のページの絵を写真に撮っていた花笠さんは絵の中央で燃え盛っている炎を拡大させて、こう言った。


「この炎の中にあるのってさ、全部だよ」

「!?」


 

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