第16話 謎ノ再開➁

  凪沙と夜とさようならをした俺は昼休みに訪れた図書館にもう一度足を運んだ。結局あの時は未来くんとの会話に時間を奪われしまい、目的の本が借りられなかったのだ。

 児童書が置いてある本棚の一番上の隅。本のタイトルからしても絶対にコレだというものを見つけた。


『安土姫ノ神』


 表紙に今にも消えてしまいそうな灰色の文字でそう書かれていた。横に大きく開く形式の薄い本で、かなりの年代物のようだった。

 今度こそ誰も図書館にいないことを確認し、その本を中央の木机に置いて、恐る恐る表紙をめくった。



――――――――――――――――――



『これは昔々の話。安土の町で鬼厄の疫病が流行りました。


その疫病は安土の人口を半分にしてしまいました。


一人の神子みこ、厄を不思議な霊術で治してしまいました。


しばらくして神子の力を独占しようとする者たちが現れ、大きな争いが起きました。


その争いは安土の人口をさらに半分にしてしまいました。


争いは神子の流した血によって終わりを迎えました。


神子の子孫たちは、新たな霊術を使って安土の町を見事に復興させることができました。


その霊術、名を安土降姫ノ術あずちこうしんのじゅつと呼んだそうです。


そう。子孫たちは優れたまつりごとには優れた神子の霊術がまだ必要だと考えたのです。


政はとてもうまくいき、安土の町はとても栄えました。


しかし――。


その降霊術には大きな大きな厄災が新たにあったのです。


人口は半分のまた半分以下になり、禁術を封じるための争いが起きました。


いつの時代も、どの政も、人間の本質は変わらない。


その本質こそが本当の意味での厄災なのかもしれないですね。



――おしまい。』



――――――――――――――――――



 ……。


 最後のページ。

 ――これは?


 ……。




 漢文でよく見る。教訓を交えたリアルな昔話。

 と、何も知らない人ならそう思うだろう。


「これは、全部そのまま……今安土町、2年3組で起きていること……だ」


 歴史資料コーナーでそのあと分かったことは、この昔話が逸話ではなかったということだ。

 神子の不思議な力のことだけはどの本を探しても書いてなかったが、実際に安土町を襲った疫病、それに続く争いは今から約180年前に起きた、紛れもなく事実だった。

 委員長たちの意見……安土ほたるさんがやっていた儀式……そしてこの昔話。剣持さんたちの気持ちも分かるけど、これは……これがおそらく……真実なんだ!


「うわっ!」


 急にズボンのポケットが濡れだしたことに驚き、手を思い切り突っ込んでからソレを机に向かって投げてしまった。

 机の上に「ぬちゃ」と音を立てた藁人形からありえないほどに大量の液体があふれだしていた。その薄桃色の水はついには床まで到達して、小さな水溜りを作ろうとしていた。


「……何だよ! コレ!!」



 俺は目をつむってその藁人形の首元をガッチリと掴み、図書館を飛び出した。

 出口に人影が見えたが今はあいさつを交わす余裕もない。その人影が誰か分からないまま、朝に安土さんに言われた通りに神社の元にあった場所に全力疾走した。

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