第12話 南姉妹➁
「これもいいかも! いや、これは可愛すぎる……いやこれしかない!」
遠くで自分に似合いそうな服を取っては自分の体に当てている若葉の姿を見つけた。
「あいつ、双葉の服を選びに来たんじゃないのか……?」
「そうだよ。ほら、双子だから。お姉ちゃんが似合う服は私にも似合うの」
「あ~……。それはとても効率的なんだけど、なんか違うような気も……まぁいいか」
「服なんかいらないのに……」
「え? そんなに嫌いなのか?」
いつになく小さな声でそう呟いた双葉。
俺は少し若葉と話すために近くのベンチに座ることにした。
「嫌いってわけじゃない。ただ、家が凄く貧乏なんだよね。両親いないし……」
「いない? どこか遠い、違う町に住んでるのか」
「お父さんは私たちが産まれた後、すぐに居なくなっちゃったらしい……の。その時お父さんが働いてた工場の経営が難しくて、双子なんて育てるお金なかったんだろうねきっと……。お母さんは……殺された」
「?! 殺された?」
「もうずっと前にね……」
◇
―――あれは、まだ小学生の頃、いつものように私たちはお母さんの隣で子守唄を聴きながら布団に入っていた。
「お母さん……お外、あめ」
「眠れない? いつか今のデザイナーのお仕事でお金が貯まったら雨が聞こえないお家に引っ越そうね~」
時計は夜の10時を指していた。お姉ちゃんはとっくにいびきをかいて寝てしまい、外の雨音と隣のいびきで寝付けない私に、ぎゅっと寄り添うお母さんの温もりが心地よかったことを今でも覚えている。
子供ながら、私が寝ないとお母さんは寝られないのだと思い、目を閉じて寝ているふりをよくしていた。
しばらくするとお母さんの階段を降りる音がする。さらに時間が経って、玄関が開く音がする。下のリビングから男の人の声が聞こえる。少し静かになってから玄関が開く音がする。毎日の出来事だった。
しかし、あの日の夜は違った。
いつもよりも男の人の声が大きい。
いつもよりガタガタとお家が揺れている。
いつもより男の人が長くお家に居る。
「もう帰って!!」
お母さんの声。聞いたことのない怒鳴り声。
強く目を閉じて、耳に手を当てた瞬間―――――
「パリンッ!」という皿の割れた音が聞えた。
お姉ちゃんは寝たまま。私は足音をたてずに階段を下りる。
暗いリビングの中央。お母さんが倒れていた。すぐそばで知らない男の人が尖った皿の破片を手に持っていた。
「お母さん……? あなた……誰?」
「……全部。お前たちのせいだよ。お前たちが産まれて来なければっ! こんな金に苦しむことなんて……なかったんだっ!!」
「お、お母さんは……!」
「俺が殺したんじゃない……俺たち夫婦はお前たちに殺されたんだ!!」
◇
「その後のことはよく覚えていないし、お姉ちゃんにお父さんのことは言ってない」
「そんな……ことが。授かった命に……何でそんなことが言えるんだっ」
「もう……いいの。今はお姉ちゃんと楽しいから」
「……そうか。じゃあ中学は2人で生活してたのか」
「そう……。ありがたいことに親戚のおばさんたちから高校卒業までの学費はみてくれるんだ。けど、それ以外は自分たちで作らないといけないから、学校と並列してできるアルバイトしてるの」
そんなことがあって、お金がないと言ってるだなんて思いもよらなかった。それで……2年3組のこともあって……。俺よりずっと強いんだな。
「双葉」
「……何?」
「今、夢とか……あるか?」
「お母さんの夢だった……デザインの仕事でお金持ちになること、かな。お金は嫌いだけど……好きなことで暮らしていけるってやっぱり素敵だから」
「なら、オシャレな服を買わないとな!」
「な、何でそうなるの? ちゃんと全部話したのに……」
そんな話聞いたからこそ……「今」を笑顔でいて欲しいんだ。俺が、家族を亡くしてからそうしてるように。
「ダサい服着たデザイナーなんて信用ならないだろ?」
「ダ? この服だってダサくないし……!」
……………………。
「あっ! 遅い! 二人とも! もう20着くらい良さそうなの選んどいたよ?」
「選びすぎだ! ホントに双葉のためなのか~ソレ? 実は自分が着たいなんて思ってるんだろ!」
「そそ、そんなことないし!」
「お姉ちゃんとお揃いが良いな……私」
「誰が払うんだ……コレ」
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