2章:俺たちの今

第11話 南姉妹➀

 学校が再開され、俺たちは前と同じ2年3組の教室で授業を受けることになった。朝から重たい表情のクラスだったのを委員長の「おはよう!」の一声が、みんなの曇っていた顔を柔らかにさせた。

 それと中村くんのお葬式は親戚間でこじんまりと行われたそうだ。この厄災が解決したその時に、揃って報告しに行こうとみんなで約束した。


「やあ、彼方くん」

「委員長。体調は大丈夫?」

「ああ、心配かけたね。それで前に聞きたいって言ってたことだけど、」

「そうそう、それなんだけどさ。俺……もう聞いちゃったんだよね」

「だ、誰に?」


 俺は前に座っている安土さんの背中をこっそり指さした。


「はぁ……そうか。それで彼方くんはどう思ってる? 一応君は既にクラスの2つの意見を聞いたことになる」

「みんな間違ってないと思うし、むしろそれ以外の選択肢は無かったんだと思えるよ。でも、俺は自分なりに貫きたいものを見つけたんだ。……もう、誰も失わないって」

「そうだね……! ありがとう」






 放課後。

 気分転換に、と委員長は齋藤さんや如月さんたちを誘って隣町のカラオケボックスに行く約束をしている声が廊下から聞えた。白馬くんや剣持さん、美和くんたちはそれぞれの部活動に顔を出しに行くと言って行ってしまった。

 俺はこれといって予定はない……。

 

「ねえ、彼方! この後さ、双葉と買い物行くんだけど一緒に来ない?」


 教室、前のドアからみんなに聞える大きな声で南姉みなみあねに呼ばれた。その後ろには南妹みなみいもうともいた。


「いいよ! どうせ俺も暇だし」

「やったね!」


 若葉はその場で大げさなガッツポーズをしている。

 南姉妹に誘われたことで俺も暇が埋まって嬉しい。なにより最近授業中などで話すようになった女子たちに学校の外のことで誘われるという事実が大きい。


「で、どこに行くんだ? 委員長たちみたいにカラオケとか?」

「駅前のデパートよ! 双葉に似合う服が欲しくってさ~。ほらほらっ~双葉って内気というか自分に無頓着って感じだからさ……」

「なるほどな。で、俺は荷物持ちでもすればいいのか?」

「違う違う! ここだけの話……」


 若葉は俺の耳に口を寄せて、「双葉と仲良くしてほしい」と囁いた。

 そんなこと言われるなんて思ってもみなかった。それは友達が多いやつに向けて言う台詞だからな。


「それはこっちの台詞だよ。俺はもっとみんなのことが知りたい」


「だってさ? 双葉! よかったね!」

「……うん。けどさ、お姉ちゃん……」

「ん?」

「財布見せてよ、今」

「え゛?!」

「お金あるの??」

「モチロン……アルヨ!」


 おい、誰を見てお金があるって言ってるんだこの姉は……。


「と、とりあえず行こ! バス無くなっちゃうからさ」

「俺は絶対出さないぞ」


 安土町をバスで飛び出して約40分。それなりに大きなデパートに着いた。若葉は降りた瞬間に「着いたよ!」とはしゃいだ声を上げて、デパートに先に入っていってしまった。


「俺たちも行こう、双葉。お姉ちゃんが高い店に入らないように誘導しないとな」

「うん!」



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