第20話 無藤真白➀
「無藤真白はゴーストだよ」
ゴーストとはつまり幽霊のことで、無藤真白がゴーストとはつまり既に死んだということなのか……いや、ゴーストはただの比喩表現であって、何かの影武者なのか。自分でも何を想像しているのかわからなくなっていた。
「ふふっ」
早瀬さんが幼い子供のように笑った。
「もしかして、からかってる?」
「違う違う! ちょっと……だけ」
「やっぱりからかってたの!」
「そうじゃなくて! 無藤は『ゴースト』って名前のプロゲーマーなの」
「ゲーマー!?」
「結構有名なんだぞ~。今日、話せるといいね。本人と」
◇
放課後。
俺は白馬くんに道を案内されながら、無藤真白さんの家にたどり着いた。
白を基調とした大きな一軒家。大きな庭に芝生が敷き詰められ、優雅に紅茶とケーキを嗜む専用に造られたようなオシャレな椅子と机が印象的であった。勿論、全てが白色だ。
「ここってもしかして、豪邸ってやつ?」
「僕の家もこんな感じだよ?」
「そ……そうなんだ。あ! 奥にブランコもある!」
「彼方くんって都会出身だよね……? 何でそんなに珍しそうに」
「都会なんてこんな広い庭ないよ! 全部ぎゅうぎゅうなんだ」
「なるほど、じゃあ行くぞ」
インターホンを押すと、しばらくしてから女性の声が聞えてきた。
「どちら様でしょうか」
「真白さんと同じクラスの白馬です。少しだけでいいのですが、話せないでしょうか?」
「……」
沈黙が10秒ほど続いた。
「帰ってくれ、と真白様はおっしゃっております」
「大事な話しなんだ! 頼むよ! 真司のことは聞いてるだろ?」
沈黙が10秒ほど続いた。
「帰ってくれ、と真白様はおっしゃっております」
「おい!」
「―――――――」
切れてしまった。
遠くからやりとりを眺めていて、一瞬何かのコントかと思ったが、白馬くんの困り切った顔から察するにマジのマジだったということが分かった。
「今の誰?」
「……無藤真白専属のメイド的な人だ。ほぼ両親の代わりだよ」
「両親は?」
「都会でお仕事。この家にはさっきのメイドさんと無藤真白しか住んでいない、もともと別荘だ」
「これが別荘……。でも、こんな広いところに2人だけで……今は学校にも来てないなんて、少し寂しい感じ……」
「そうだね。でも、どうしようか……。このままだと入れない」
少しの間、2人で作戦会議をして、満を持して白馬くんは再度インターホンのボタンを押した。
「真白さんと一緒にゲームしに来ました! 入れてください!」
沈黙が10秒ほど続いた。
「いいよ、と真白様はおっしゃっております」
「うっし! やった!」
「ただ、オンラインゲームなので家に帰ってからお願い、とも真白様はおっしゃっております」
「は?!」
「―――――――」
どうすればいいんだよと言わんばかりの顔をこちらに向けてきた。時間を空けずにもう一度トライしろと俺は目を閉じてハンドシグナルした。
「あ、あの!」
「プツンッ―――――――」
今度は白馬くん声を出した瞬間に切れてしまった。白馬くんは思い切り拳を天高く振り上げるもどこにもぶつけることもできずに、そのまま自分の太ももを叩いた。
「……元々俺らが駄目だってことは分ってたけど……やっぱしんどいよ。彼方くんにあとは任せるよ」
「1人で行けってこと!?」
「そうだよ。じゃないと、行けるものも行けなくなるからな」
白馬くんはとぼとぼと来た道へと帰ってしまった。
少し時間を置いてからにしよう、何か興味を持つ提案をそれまでに考えておこう。
……。……。……。
そして。
作戦が固まった俺は、今度こそという気持ちを込めて、力強くインターホンを押した。
「今年度から安土第一高校に転校して来ました出雲彼方と申します。同じクラスになった真白さんに挨拶しに来ました」
「よろしく、と真白様はおっしゃっております」
「いきなりで馴れ馴れしいかもしれないけど、一緒にゲームでもしない? 俺もゲーム好きなんだ」
「オンラインで、と真白様はおっしゃっております」
「俺、引っ越してきたのは両親が亡くなっちゃったからでさ……今ばあちゃんに家に居候みたいな感じで暮らしてて、それでインターネットとか繋がらないんだ。友達とゲームしたこともなくて……もしよかったらって思って……」
今までで一番長い沈黙が続いた。
いきなりで重い話かもしれない。自分のことを他のクラスメイトにも自ら言ったことはあまりない。けど、相手を知るためにはまず自分のことからだと、俺はそう思った。
「シャワーを浴びて、着替えるから少し中で待ってて、と真白様はおっしゃっておりますので、どうぞ中に」
「ありがとうございます!」
扉が開いた。まるでRPGゲームの大きなミッションでもクリアしたかのような気分だ。
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