第2話 転校➁

 昨日はよく眠れた。そのおかげか筋肉痛などは全くない。

 学校に着くと既に多くの生徒たちの声が聞えてくる。

 俺はきょろきょろとまわりを見ながら職員室に向かった。


「君が今日から転校して来た出雲彼方くんだね」

「はい、よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。ええと、クラスは2年2組で、僕が担任だ。朝一番に体育館でやる始業式はまだ参加しなくていいよ、10時からのホームルームから挨拶って感じかな」

「わかりました!」


 お腹がワイシャツから出ていて、ネクタイも曲がっていたから変な先生かと思ったけど話してみるとすごく優しそうな先生だ。


「じゃあ僕は始業式に行かないとだからここでゆっくりしててね」

「は、はい」


 そういえば、2組だったな。昨日不思議美少女が言っていたことが頭に浮かぶ。


『あなたがもし3組以外のクラスだった場合は私のことと今話したルールは全て忘れること』


 俺は先ほど先生が持っていたプリントを手に取り、内容を見ようとした瞬間に目まいが起きて、うまく字が読めなくなり一度紙を置いて深呼吸した。


「…………ん? 3組?」


 さっきのは聞き間違えか、それとも先生の見間違いか? 俺は「2」と「3」は似てるからきっとそれで間違ったのかと強引に自分を納得させることにした。


 3組の名簿表に今度は目を移す。

 

 俺が読んだラノベの話の続きだが、前日に会った美少女と次は当日の教室で出会うという展開がある。これは期待せざるを得ないと下の名前が「ほたる」の生徒を上から探していくが見つからない。


「そういえば漢字は分からないな……」


 都会の高校では名前の音だけでは漢字が推測できないということが何度もあった。「ほたる」だからといって「蛍」という字というのはもう古い考え方だ。



 ……



「おまたせ、出雲くん。教室の前まで一緒に行こう」

「はい」


 俺は脳内で今後の展開を予想した。


『転校して来た出雲彼方です!(俺)』


『あっ!! 君は!!(不思議美少女)』


『!? 君は昨日の……!(俺)』


『君たち知り合いだったの!? じゃあ席はほたるさんの隣で決定かな(先生)』


 きっとこれだ……。どうだ? 俺もこんな愉快な妄想ができるほどにあれから回復、いや成長したんだ。自分に自信を持てばいけるはず。ラノベの神様もきっとそう思ってる。

 

 ――そして、いよいよこの瞬間が来た。


「出雲くーん、入ってきていいよ」


 ドアを開けて、教卓の前に立つ。前を見ると20人ほどの生徒がみんなしてこちらを見ている。俺にこんなに視線が集まったのはいつ以来だろうか、いやこれはギネス記録だ。


 窓際に目を移すと、そこには不思議美少女が退屈そうにちょこんと座っていた。


「今日からこのクラスに入ります、出雲彼方です。これからよろしくお願いします!」


 

(男かよ~)


(都会から来たんだって)


(お金もちなの?)


(けっこうイケメンじゃね?)



 こそこそと聞こえてくる声は悪くない。どうやら大滑りは避けることができたようだ。

 しかし不思議美少女は反応を示すどころかこちらを見向きもしない。


「じゃあ出雲くん、窓側の後ろの席に座って」

「わかりました」


 席に座ると昨日感じた匂いが前の彼女からした。木々の匂い、微かな土……? 山の中に住んでいるのだろうか。

 

「ねえ、君昨日会ったよね? ここで」

「……」


 きっと彼女も俺と同じでぐいぐい来られるのは苦手なタイプなのだろう。俺も今日は初日だ。クラスを観察することにしよう。






 ホームルーム終了後。

 転校して初めての休み時間が訪れた。


「彼方くんって呼んでいい? 俺は野上亮平のがみりょうへい。よろしくね」

「は、はい」


「ほら、出雲くん怖がってるでしょ? 挨拶はもっと軽くないとダメだよ? あ、私は齋藤さいとうひばり。亮平は委員長で私は副委員長してるの。分からないことは何でも聞いてね。よろしく~」

「よ、よろしく~」


 野上くんも齋藤さんも誰とでも話せる優しい陽キャという印象だ。委員長、副委員長ってことはクラスでも2人は頼られる存在なのだろう。


「あ、そうだ! この後授業もないし、校内案内するよ! ね? 亮平」

「そうだね、3人でまわろう」

「ありがとう、助かるよ」


 2人の間から他の生徒たちの視線が向けられているのを感じた。

 委員長たちがいるからなのか、視線を向けるだけでこちらには近づいてこない。転校生はやはり珍しいのだろう。

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