第3話 転校➂
「ここが保健室で、あっちが放送室ね。そんなに広くないし覚えやすいでしょ?」
「そうだね、それに2人の案内のおかげでもあるよ」
「それはどういたしまして。彼方くんはサッカーとか興味ある? いきなり勧誘で申し訳ないけど、こんな田舎だと大人数スポーツは厳しいんだ。もし興味あるなら今度練習に来てよ」
「全然いいよ。運動は凄い得意ってわけじゃないけど、不得意ってわけでもないからね」
「ありがとう!」
「ごめんね~、亮平は何事にも全力な性格でね」
自分でも驚くほどに会話が弾んでいる。この調子ならみんなと友達になれそうだと思っていた頃だった……。
「質問っていうかちょっと気になったことだけどさ、3組の違和感って何?」
「…………」
「…………」
「ど、どうしたの? 2人とも……」
いつもニコニコしていた野上くんは「違和感」と俺が言った瞬間に笑顔が消えさり、目を細めた。齋藤さんも同様に笑顔がなくなり、俺を蔑むような目で見てきた。いったい何なんだ……「違和感」ってのは……。
「「それ、どこで知ったの?」」
「いや……別に。噂で」
「そう。これからは変なこと言わないでください」
「お、俺ちょっとトイレに……」
俺は慌ててその場から逃げ出した。このままだと何かまずい。そんな気がしたのだ。人は誰しもトラウマや怒るキッカケとなるワードが存在するし、それは当然のことだと思ってる。
昨日、不思議美少女が言っていた気づいた違和感を忘れなきゃいけないってのはこのことなのか? てか、そもそも違和感ってのは何なんだよ。これ事態が俺にとっての違和感だ。
「あ!!」
廊下の角を曲がると、その不思議美少女とぶつかりそうになった。
俺はとっさに両肩を掴んで、謎を問いただした。
「昨日言っていた違和感ってのはいったい何だ? 委員長と副委員長に違和感って言っただけで軽蔑の目を向けられたんだ。どういうことだ?」
「最初からいうべきではなかったわ。あなたもっとおとなしいタイプだと思ってたから。いい? 全て忘れなさい。学校生活を平和に暮らしたいならね」
「……どういうことだよ」
「とりあえず手、離して……」
「あぁ、すまん」
俺は強く掴んでしまっていた手を離すと、どこかに逃げてしまった。
「――ん? うわあっ!!」
手にザラザラした感触が残ると思い、手のひらを見ると乾いた土がついていたのだ。
「あいつ、いじめられてるのか……? 肩に土なんて普通付かないだろ……」
ふと後ろを振り返ると委員長たちがこっちまできているのが見えた。
「さっきはごめんね~、いきなり突き放すような態度とって、」
「……いやこっちもごめん。知らなかったんだ。クラスにルールみたいなのがあるんだろ?」
「本当にすまない。ただ今は何も話せない……。何も起きないなら……知らなくてもいいことだからね」
「……。わかったよ。今は何も聞かないし、何かを突き止めようともしない。ただ、記憶はしておくよ。それくらいはいいだろう?」
「ありがとう、出雲くん」
俺はひとまず教室に戻り、この学校で起きたことをメモした。
『・2年3組には何かしらの「違和感」がある。
・その「違和感」を聞くこと、調べることは今のところタブー。
・不思議美少女の肩に乾いた土が付けられていた。
→これは「違和感」とは別? いじめなら解決すべき 』
「ははは、俺は転校初日で何やってんだろ。探偵じゃああるまいし……積極的に生きるの意味をはき違えている気がするな」
この時の俺はまだ何も知らなかった。
気軽な気持ちで調べるべきではなかった、と。
後々思うことになるとは……。
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