安土姫ノ神 ―アヅチヒメノカミ―

ミステリー兎

プロローグ

 昔から、表で目立つことが好きじゃない性格だった。

 そのせいか俺には、クラスに友達と呼べる人がほとんどいなかった。

 部活にも入っておらず、授業が終わればすぐ帰宅する味気ない毎日だった。



 その分、家族と過ごす時間はとても楽しかった。

 学校の愚痴を熱心に聞いてくれて、どんなことでも応援してくれて、これまでの全てを支えてくれた。



 ――高校1年の夏、そんな両親が死んだ。



 家族4人を乗せた車は山道で土砂崩れに巻き込まれたと、意識が戻った都心の大きな病院で聞かされた。



「俺だけ……助かったって……そんなっ」

「不謹慎ですが、本当なら全員死んでいてもおかしくない事故でした。後部座席に座っていたあなたと妹さんが命からがら助かったのはきっと両親が護ってくれたからですよ!」



 俺は悲しさや喪失感を怒りに変えて周りの人にぶつけることはしなかった。なぜなら説明してくれたその人たちには優しさしかなかったからだ。


 ただ、両親はもういないし、妹はまだ目覚めない。

 喪失感だけが膨らんでいった……。




 「本当に大切なものは無くなって初めて気づく」という言葉をまさかこんな形で身に染みて感じるとは思いもしなかった。







 そんな悲しみを時の流れは待ってくれない。

 あれから半年以上が経った。

 そして、たくさんのことが決まった。


 まず、俺は安土あづちという小さな村に住んでいるおばあちゃんの家に居候することになった。これからずっと両親がいなくなったアパートで1人寂しく生活していくのは鬱になってしまうとおばあちゃんが心配してくれたのだ。駅までのバスは1日に3度しか来なくて、近くのスーパーまでは歩いて20分と聞いた時はかなり不安だったが、実際にその地に訪れると、自然に満ち溢れたのどかな場所だった。

 

 次に2年に上がるタイミングでの転校が決まった。駅までバスで1時間、電車に揺られて1時間半、学校までにさらに30分の徒歩。これはさすがに現実的じゃない。今まで通っていた高校に特に未練もなかった俺は早々に転校を決めた。

 

 最後に俺の心が変わった。というか、新学期から変わろうという決意だ。

 家族のことはホントに今でも辛い。……けど、俺はまだこうして生きている。




 「大切なのは無くなってから初めて気づく」って、俺はもう可能ならば思いたくないが……俺がいつか死んだときに俺にとって大切な誰かに、そう心の奥で思ってほしいんだ。

 

 だからこそ、俺はこれから充実した、積極的な明るい毎日を送って、今度こそ大切に思える友達をつくろうと思ってる。

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