第5話 2年3組の友達➁

「今から班になってこの問題を考えてもらいます」


  数学の授業が始まった。……のはいいが、早速俺の班は気まずい雰囲気になってしまっている。

 安土ほたるは形だけは班の体勢になっているわけだが、こちらを見向きもせずに黙々と問題を解いている。

 俺も問題を解こうと目線を教科書に下げて鉛筆を手に取った瞬間、声をかけられた。


「私は南双葉……」


「私は南若葉!」


「「よろしくね」」


 同じ声。同じ顔。

 職員室でこっそり見た名簿や顔を勝手に見比べることで彼女たちが双子なのだと知った。ボーイッシュなショートカットで猫耳のような寝ぐせが二人ともできている。

 委員長に聞いた話だと、双葉が姉で若葉が妹で、見分け方は右手首に巻いているミサンガの数だという。


 たしか……ミサンガが1つ巻いている方が姉の若葉さん。2つが妹の双葉さん、のはずだ。


「俺は、出雲彼方です。よろしく」

「委員長に私たちのこと聞いてたでしょ~? 今このミサンガちらちら見てたし~」

「ご、ごめん。ちゃんと覚えるようにするよ」



「いいの……お姉ちゃんニヤニヤしてる時、だいたいからかってるだけだから」

「あっ! もう双葉はすぐばらしちゃうんだから~!」


「もしかしてだけど、他のみんなはミサンガで見分けたりしてないですよね? ……そのなんていうか、」

「そうだよー。私たち顔は似てるけどテンションとか全然違うしね~」


 やっぱりそうだ。姉の若葉さんは元気で明るい性格、反対に妹の双葉さんは少し控えめな性格のように感じる。



「彼方だっけ? いいこと教えてやるよ! 妹の双葉はおとなしいけど勉強が得意、姉の若葉はうるさいくらい元気で勉強は何もできないって覚えるんだ~!」

「ふざけんなバカ耕太! 勝手なこと言ってんじゃないわよ!」


 椅子を傾けてきた隣の班の三谷耕太みたにこうたという男はいつも調子のいい奴で姉の若葉といつも喧嘩という名のじゃれ合いをよくしているのだと妹の双葉から教えてもらった。


「彼方君、数学とか得意……?」

「あ、ああ。理系科目のが好きだよ」 

「お姉ちゃんは勉強ダメダメだから一緒に考えてくれる?」

「いいよ」


 俺たちは教室の後ろで先生に怒られている若葉さんと耕太くんを横目に問題を1つずつ解いていった。最後の問題に取り掛かろうとした瞬間に終わりのチャイムがなってしまった。席を元に戻して次の授業の準備を進める。


「あの、双葉さん。安土さんっていつもあんな感じなんですか?」

「……そう。班の時は私たちでやろ? ……ね」 



 まただ。


 安土さん以外の他の生徒たちは、若葉さんと耕太くんや委員長と副委員長のように仲が良すぎるくらいの関係だ。……なのにどうしてだろう。

 そして、安土さんも安土さんだ。自分から誰かに話しかけることは一切ない。俺も人のことを言えないが、まるでお互いが関わることを避け合っているような、そんな気がした。



「てめぇ……出雲彼方っつたか?」

「は、はい、?」


 いきなり肩を後ろから掴まれて強引に振り向かされた。

 制服を羽織のように雑に着た、背が高くがたいのいい男が今にも殴りかかってきそうな気迫で俺を睨んでいた。

 教室には俺とこの男の2人きり。誰かに助けを求めたいがどうすることもできない状況だった。


「俺は碇圭介いかりけいすけってんだ。いいか? この世界にはどんなに小さなテリトリーにも遵守しなきゃならねえルールってもんがある。法律やマナーとは違う……この村、学校、クラスのルールだ」


「なんの話ですか……? それってもしかして安土さんが言ってた……」


「!? ……。お前は、亮平が言っていたことに従えばそれでいいんだ」 


「……?」


 碇圭介くん……そう言ってすぐ行ってしまった。

 委員長に従え、か。あんな怖そうな感じなのにルールとか下に付くタイプなのはびっくりしたな。ていうか委員長って実はヤバい人だったりして……ね。



 次の授業が始まるまでもう1分しかないことに気づき、俺は急いで廊下を走った。




「やば! 体操着にまだ着替えてなかった!」

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