第7話 厄災ノ始マリ➀
5月1日朝。
窓を叩くような大粒の雨の日。
「おい……コレ、何なんだよ……」
教室の中央付近。変わり果てた姿で横たわっていたのは同じクラスの中村真司の遺体だった。まるで何十日間も絶食したかのように全身が枯れたようにしぼんで、しわだらけになっていた。体の至るところに、茶黒色の砂のようなものがふりかけられている。
「死ん、でる……どうして……」
中村くんと仲のよかった者たちの外の雨音をかき消す、悲しさの混じった怒号が教室内に響き渡る。そのほかの生徒たちもそれにつられて感情をあらわにしている。
俺は彼らよりも関係値は薄いが、昨日彼がこの教室で元気に笑っている姿を見ているし、身近すぎる死をまた体験してしまったというショックでどうにかなってしまいそうにいた。
「……委員長、コレはどういう、」
「わからない……わかるわけないだろ……真司くんも……ああああぁ」
しばらくして駆け付けた先生が警察を呼び、学校は休校になった。
第一発見者であった如月さんと委員長、担任の間桐先生は事情聴取を受けるために職員室に連れていかれ、俺たちは学校から今日を含めて2日間の自宅待機を命じられた。
いつかの体育で話しかけてくれたとき、俺は彼から純粋な温かさを感じた。そんな彼が……死ぬなんて……ことは。
また『違和感』という言葉が頭に浮かんだ。
いや……こんなの、違和感を通り越して事件だ。
俺は心の中で1つの結論を出した。
アレは自殺なんかじゃない。
俺は中村くんとよく一緒にいた美和くんに話しかけてみることにした。
「美和くん、中村くんと仲良かったよね……? ごめん、こんな時に」
「いいさ……お前はどう思ってる? この件を」
「……わからない。俺も知りたくて」
「何で中村を、……絶対許さねえ」
……行ってしまった。
俺は今日は言われた通りに家に帰ろうと下駄箱に行くと、おかしな点に気づいた。
間桐先生や警察の人たちは全員に聞えるように自宅待機のことを話したはずだ。なのに、下駄箱を見るからに半分以上の生徒がまだ帰宅していない。
第二実験室……家庭科室……物理準備室……。
全速力でみんなが居そうな、使われていない教室を駆け回ったが見つからない。
外靴と傘がまだ玄関に置いてある……まだ少なくともクラスの半分は校舎にいるはずなんだ……。
「こんなとこで何をしている?」
「っ……、剣持さん? みんながまだ帰ってないみたいで探してたんだよ! どこかで集まってるの?」
「委員長や副委員長に何か言われてるか?」
「いや……まだ何も知らなくていいって、」
「ならついて来い。いろいろ教えてあげるよ、彼方」
剣持さんは剣道部で使っていると思われる竹刀を腰に手で押さえるように持ったまま、鋭い視線を周囲に向けながらみんなが居るという場所に案内してくれた。
「音楽教室だ。この廊下を奥まで進んだ先の地下にある」
「地下……? そんなの委員長たちから聞いてないよ!」
「それはそうだ。今は授業で使われていない昔の音楽室だからな」
バリケードのように組み立ててあった机と椅子を強引にどかすと、地下に降りる階段が現れた。剣持さんは再度、誰も入ってこられないようにバリケードを作っている。
「少し待ってて……部外者以外通させないようにするから……」
「その旧音楽室には2年3組のみんながいるの?」
「……みんなじゃない」
「え? 事情聴取中の委員長や如月さんはともかくとして、副委員長たちは?」
「いない。そいつらは部外者だ」
「じゃあ、あの委員長たちが言ってたルールってのは……?」
「それは私たちには関係ない」
「……?」
何かがおかしい。
委員長や副委員長たちが隠しているナニカを剣持さんたちは何も思っていない……? というかそもそも2年3組には少なくとも2つ以上の派閥があるのか?
待て。もしこれが何かの罠だったらどうする?
中村くんが死んでからまだ半日も経ってないんだぞ。
『殺人』
そうだ……。
アレは自殺なんかじゃないって……。
逆を返せばアレは他殺の可能性だって全然あるんだ。
「剣持さんさん、俺……今日はやっぱり、」
「目の前が旧音楽室。バリケードはもう作り終わったから。さ、入って……」
――――扉が開く。
もう、引き返せない……。
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