第27話 真実ヲ探シテ➁
「ちょっと休憩」
「彼方、夜がどこにいるか知ってるか?」
「いや、見てないよ。葬儀の後帰ったんじゃない?」
「そうか……」
「どうかしたの?」
「流水の儀(葬儀の始まりと終わりに参列者はコップ一杯の純水を口にする安土村に伝わる儀)の時、水に一口も付けずに捨てていたんだ……体調が悪いなら一緒に居てやるべきだったか」
「それって……捨てちゃまずいんじゃなかった?」
「ああ……。体調がよくなれば学校にくる、か」
「……そうだね」
ここに来ているメンバーは精神的には心配ないはずだろう。けど、夜や葬儀以降にまだ顔を見れていない人たちは少し心配だな。たしか、南姉妹も顔色がずっと悪かった……し。
「凪沙! 彼方! こっち来い!」」
修人くんの声。俺たちは急いで教室に向かった。
深夜の3時過ぎ。普段勉強している教室の中央には見たことのないほど大きな穴が掘られていた。周りには土埃がたち、ジャリだらけだった。
俺が懐中電灯を穴の中に居た白馬くんを照らすと、近くに木箱のような細長いモノの上面が顔を出していた。
「コレ……なに?」
「わからん。今から太志も呼んで5人でこれを地上まで引き上げる。いいな?」
「わかった」
俺は、転び滑るように穴の下まで降りて、その木箱の周りの土を取り除き、縄で上から引っ張れるように固定させた。上には力のある太志くんと修人くんが、下には俺と白馬くん、凪沙が持ち場につき、掛け声とともにソレを動かす。
「っ重い! コレ!」
「腰から力入れろ! せーので一気に押すぞ!」
少しずつではあったが、箱は上へ上へとズルズル動いていった。教室に持ち上げるまででもそれから30分以上かかった気がする。
「開けるぞ……コレ」
上面にはどこかで見たことのある模様が木彫りによって描かれていた。長い髪の女、それを囲う棒人間たち。俺の目にはそう見えた。
ギギギ……ギギギ……。
――――――――っ。
「っ……おェ、」
嗅いだことのない刺激臭。瞬時に鼻を摘み、臭いをシャットアウトさせたが、中のブツを見て、さらに吐き気が増した。というか、俺たちはその場で嘔吐してしまった。その場を離れ、吐き気を落ち着かせ、またソレを見ては吐く。そんなことを繰り返して、やっと全員が話せるレベルになった。
中に入っていたソレはうまく言葉で表現できないが、簡単に言うと腐ったミイラだった。ミイラで腐っているというよくわからない表現だが、とにかく状態が悪かったため、そう真っ先に思った。顔は判別できない。皮膚なんてものはどこにもなく、赤黒く朽ち欠けた骨から人ということがギリギリわかる、そんな感じだ。
「んだ! コレ……! こんなもんが教室の下に埋まってたのかよ!」
俺は、ソレをなるべく視界に入れないように箱の中に他にナニカないかを探ると、上面にあった木彫り文字が横面に掘られていたことに気づいた。
「なあ! みんな、横を見てくれ!」
「横? ――――っ!!」
「これは……」
「まさか……な?」
「ヤバいって! みんな!」
「……?!」
俺も鳥肌が立った。委員長たちが死んで、まだその日の夜だぞ。こんなにとんとん拍子に行くかよ、と俺は複雑な気持ちになった。
そこに描かれていた文字は2年3組の生徒全員が知っていた単語だった。
それと同時に。
横の腐ったミイラがどういうものなのか、その正体もなんとなくわかってしまった。
「安土姫ノ神」
そう描かれていた。
表紙の木彫り……あれに見覚えがあったのは図書館で見た「安土姫ノ神」の本の絵だ。
そして。この細長い木箱。いつ埋められたのかは具体的にわからないが、100年は経っているだろうと腐り具合から推測できた。そして……俺たちはこの箱に似たものを先ほどの委員長と副委員長の葬儀で目にしていた。
――これは。
「これは安土姫ノ神の棺桶だ」
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