第30話 厄災ノ終ワリ➁

 次の日。


「お前がコレを持っていろ。またその現象が起きたら俺たちに伝えろ」


 修人くんに言われるがままに俺はあの中の1つの儀式人形を持って帰ってしまった。

 こんなとき、委員長がいたらどうするだろうか。また安土さんに儀式を始めてもらえば……このまま死者は出ずに平和にはなる。

 いや、きっともうそうは思わないはずだ。安土さんは少しずつだけどクラスに戻りつつあるんだ。そんな矢先、儀式を再開しろだなんて、もう一度死んでくれと言っているようなものじゃないか。


「どうかしたか?」

「安土さん。いや、人形のことで、ちょっと……ね」

「私が言うのは説得力皆無だけど……迷ったら相談しなよ? 疲れたらその人形なんて捨てて私がもう一度、」

「それは絶対ダメ! ……俺が引き受けたんだ。やるさ」

「そう。それと、厄災の時期についてで分かったことだけど。スタートが春じゃなくて秋なのは、毎年起こってるから」

「毎年起こっているから? どういうこと?」

「卒業アルバムからの推測だけど、場所の厄災は毎年起こっていた。それで学校は春にまた新しくその教室を使うとき盛り塩をしてたんだって」

「また塩……か。それでその効果が秋まで続いたってわけか」

「そうみたい」


 おばあちゃんの家の出迎えも儀式人形にも必ず塩が使われていた。この安土村において「塩」は大きなパワーを持っているとされ、実際にその効果もあるというわけだ。





 体育の授業。

 先生たちも極力2年3組に近づきたくないのか、あれから自主マラソンがずっと続いていた。

 俺は授業で体育着に着替えても儀式人形はポケットに入れておくことにした。ある確かめたいことができたので、みんなと話せることができるこの授業は絶好のチャンスだと思った。


「もうすぐ学園祭だね……」


 ゆっくりなスピードで走っていると横に真白が来た。


「ああ。真白たちは1年生のとき学園祭は?」

「やってないよ。幽夏の件で1年3組は中止になったの。来年から秋から初夏に変えるって方針にもなったけど……今年も……」

「なるほど! だからみんなは……」


 委員長と副委員長のやりたかったこと、ってわけか……。


「今年はできるよ、絶対」

「そうだね」

「実は俺も……前の学校でそんなにしっかり参加できてないんだ」

「そうなの?」

「その……まわる友達がいなくて、すぐ帰っちゃったんだ。だから俺も今年が初めて、かな」

「じゃ……じゃあさ、一緒にまわろうよ、学園祭」

「え? いいの?」

「……うん」

「ありがとう~!」


 真白は小さく返事をするとそのまま俺を抜き去って行ってしまった。


 ……。


「おや~? ラブラブですね~」

「……お姉ちゃん! ダル絡みやめなよ」


 すると、今度は南姉妹が並んで話しかけてきた。


「……な、なんだよ! 聞いてたのかよ」

「デートのお誘いですか~?」

「ち、違うよ! ……ただみんなと学園祭って思ってただけだよ。全部解決して」

「……私もそう思ってるよ。このまま誰も居なくならないで綺麗さっぱりした状態で学園祭をやりたいって」


 …………。


 次にすれ違った夜と凪沙、さくらさんたちは、最初は不安な声で厄災の心配をしていたけど、誰しもが口をそろえて学園祭を成功させたいと俺に話してくれた。


 ………………。


 ――それと。





 放課後。

 俺は隠密にあるメンバーを旧音楽室に集めた。


「なんだよ、彼方。お前が呼びつけるんなんて珍しいな」


 修人くん、白馬くん、未来くん、碇くん、太志くん、耕太くんの呼びつけた6人が既に座っていた。


「ごめんね、急に集まってもらって」


「ん? そういえば男ばっかだな。3組全員の男子か?」

「……うん」

「どういうことだ?」


 俺は修人くんと白馬くんのそばに行き、ポケットからびしょぬれの儀式人形を見せた。


「!?」


 いつ、どのタイミングで儀式人形から塩水が噴き出るのかをあれからずっと考えていた。

 一定の時間? 特定の場所? 儀式人形のポケットの中での位置?

 どれも違う。

 今日のマラソンの授業中。ポケットが徐々に濡れていくのを感じたとき、1つの可能性にたどり着いた。


「この儀式人形は何故か女子と話したり、近くに居たりした時に塩水が染み出してきたのを体育の時に感じたんだ」

「どういうことだ?」

「安土姫ノ神が女性だったからかもしれない。この人形はさくらさんの言う通りあの本の絵のものだとすると、ね」

「なるほど……そうか! あの絵は!」


 修人くんは言わずとも察したようだ。


 この儀式人形の別の使い方。

 ――もう、これしか考えられない。



「この儀式人形は……2年3組に混ざってしまっただった……!」


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