第29話 厄災ノ終ワリ➀
大量の儀式人形。
俺たちはしばらく言葉が出なかった。
周りの風の音。先程まで響き鳴いていた野鳥の声。
何も聞こえなくなった。心臓の音以外はすべて。
全ての意識が目の前の儀式人形に支配されていたのだ。
「儀式人形は安土さんが持っている1体だけじゃなかった……?」
「誰が、いつ埋めた? 何のためにこんな量の人形を……。とにかく安土にこのことを連絡してすぐに呼んでこい」
「わかった……!」
……。……。……。
カサカサと落ち葉を踏む音の方に目をやると安土さんがもう来ていた。
連絡してからすぐに来れたのは安土姫ノ神の遺体が気になって後を追ってきていたからだと彼女は言った。
「人形……? 私の以外に、こんな数があったの??」
「それを聞こうと思って連絡したんだよ! コレはお前のじゃないのか? 予備とか、使い捨てたヤツとか、」
「私が使ってた人形はもともと私の家にあったもので、ここにこんな大量の儀式人形があったなんて初めて知った……」
「なんだと? ……そもそも、人形の使い方のことをどこで知って、委員長に儀式のルールを話したんだ? あの安土姫ノ神の本以外に何かまだあるのか?」
「もういないお母さんから貰った時に聞いたの。周りで異変が起きたら、この人形で今から言う手順の儀式をしなさいって……。お母さんはその後すぐに会社で亡くなった。コレは最後にお母さんがくれた唯一の御守だってずっとそう思ってきた。……けど」
「コレは複数存在した……か」
その後も修人くんは安土さんにいくつかの質問をしていたが、結局安土さんは複数存在する儀式人形については全く知らなかった。
「だから……私は何も分からない。安土姫ノ神の遺体のことも……知らなかったし」
「幽夏と真司……委員長または副委員長の死の原因はおそらく遺体による『場所』の厄災だ。そして委員長と副委員長の死の時、別の厄災が増えていた。それこそがお前が言っていた生死のバランスの話……ってのが今俺や白馬たちと考えた結論だが、安土はどう思う?」
「……私もそう思う。今まで……間違ってたんだね、私。もう取り返しがつかない……」
「結果としてはお前の儀式は成立してた。それよりも今は解決策だ。お前が儀式をする以外でだ。その厄災を止める方法は? 何かないのか?」
「混ざった死者を見つけるしかない……よ」
「やっぱりそうか……」
ここまでいろいろなことが起きて、遠回りをしながら解決してきたが、結局のところ残ったのは最初に安土さんが言っていた厄災の解決法とこの儀式人形の謎というわけだ。
安土さんですら分からないのなら、議論はこれ以上進まない。
そう思いをよぎった瞬間、さくらさんが口を開いた。
「コレ……私見たことある……かも」
「え? さくらさんの家にも人形が?」
「違うよ彼方くん、あの本だよ」
「?」
さくらさんは掘り起こした人形たちを横に並べて、拾ってきた木の棒で何かを書き始めた。
「真ん中には炎……その中には墓標……きっとこの姫の棺桶も中に……そして、炎を囲む民衆……手には儀式人形を……」
「こ、これは! 安土姫ノ神の最後のページに描かれていた……絵? あの棒人間たちが手にしていたのは……儀式人形だった!?」
「まじか! 何のためにだ……?」
「分からない。けど……この人形は安土さんの使い方以外にも何か、大事な別の使い方があるのかもしれないってことかもね」
その話を聞いている途中、俺はいきなり目から涙が出てきた。全身に鳥肌が立つのも感じ取れた。
「大事な別の使い方……」
「どうしたの? 震えてるようだけど……」
「思い出した……ほたるさん! 俺が間違えて、人形をポケットに入れて持ち帰ってしまったときのこと……。人形にある異変が起きた……こと」
「?」
いつ持ち帰ってしまったのかは今でも思い出せない。
けど――思い出した。
いや、なんであんなに重要なことを今の今まで忘れていたんだ! 俺。
「南姉妹とショッピングに行った時……夜と凪沙と話しをしたあと図書館に行った時……その儀式人形はおかしかったんだ。急に濡れだして……尋常じゃない量の塩水が噴出したんだ……!」
「「「?!」」」
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