1 ホイル包み焼きハンバーグ㉓
*
(思い返してみても、ほんと謎だというか。何があるかわかんないものだなあ……)
シュンは未桜の顔を知らないので、スタジオにほど近いというこのコーヒーチェーンの店舗で、わかりやすい服装をして待ち合わせる
それにしても、動画の撮影自体は終わった後で決して映るわけではないと言われていたのに、なんとも気合の入った格好をしてしまった……と。長らく灰色のスーツで着たきり雀をやっていた我が身を思い返しつつ、苦笑する未桜だ。
きっちりメイクをするのは、本当に久しぶりで。顔を作りながら「アイカラーは、慣れてないうちは色が濃い方から塗るのが鉄則でぇ。ライナーはまつげの隙間を埋めるみたいに、目とのキワッキワにね」という麗子の教えをうっかり思い出した割に、意外にダメージが少なかった。
料理をご馳走になるだけだ。別に何を期待してもいないのは大前提で、──それはさておき。服飾への気遣いは、未桜が立派に舞い上がっている証拠だった。
(だって前に作ってた炊飯器チャーシュー、ほんとに美味しそうだったんだもの)
トロトロのお肉の断面を思い出して、食べたばかりのコンビニラーメンにのっかったチャーシューという名の肉の切れっ端に、多少物悲しい気分になったくらいだ。
(びっくりだな。今日は何を作ってくれているんだろう。シュンくんの料理を、本当に直接食べられる日が来るなんて思わなかった!)
改めて思い返してもミラクルな展開に、しみじみと息を吐き出しつつ、手元のドリンクを茶色い紙ストローでかき混ぜていると。
──こんこん、と目の前のガラス窓が軽くノックされる。
「!」
顔を上げると、チェーン店のロゴの描かれた透明なガラスの向こう側で、画面越しに見慣れた童顔の青年が、ヒラヒラと手を振って微笑んでいた。
「お待たせしました! ロバさん、今日は本当にありがとうございます」
鼻の頭を指先で照れ臭そうに
そして、ニコニコと満面の笑みを浮かべる顔は、画面越しで見るよりずっと整っていた。少しだけ垂れた黒目がちな眼は大きく、目鼻立ちは「人間の顔のお手本」みたいに行儀良く並んでいる。肌は健康的な範囲内だがやや白く、柔らかそうな栗色の髪やべっこう
すらりとした
(子犬っぽい)
無防備に目をキラキラさせ、ちぎれるほど
(こう……オーラが
軽く衝撃を受けてよろめく未桜に「?」を顔に描いて首を傾げた後、シュンはさらにニコッと笑みを深めた。「えと、……? どうしたんだろ? てかロバさんで合ってるかな? 間違えてたらすみません」とでも考えているのかな、と察したところで、ほとんど予想通りのセリフをそのまま言われた。なんとわかりやすい子だ。素直すぎてちょっと心配になるレベルに。
「ろ、ロバです。合ってますよ。こちらこそ今日は本当に、ありがとうございます。お世話になります」
「はい! お世話とか、そんなそんな。や、あの、ぜひお気楽な感じ? でお願いします! 僕のわがままで急にお誘いしちゃったのに、快く来ていただいてるんで!」
しどろもどろになりつつ頭を下げて自己紹介すると、シュンは「よかった合ってた!」と胸を
(いい子だなあ。なんか緊張がほぐれてきた)
彼があまりに……無邪気に笑うもので、釣られて未桜も思わず微笑む。作り笑いでも
しかし、十数分後。未桜は、今度はあんぐりと口を開けて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます