1 ホイル包み焼きハンバーグ②

          *

 ――この人生は、悪循環だけで構成されている。

 今の中嶋なかじま未桜みおにとって、日々とは常に「そんなもの」だ。

 生きるのはしんどい。めんどくさい。さりとて積極的に死ぬほどの勇気もガッツもない。だから結局、ぬるぬると寝て起きる。惰性で酸素を吸って二酸化炭素を吐いて、ものをそしやくして飲み込んで消化して得たなけなしのエネルギーで、やる気なく体を動かす。以下エンドレスリピート。

 ただ、このところ少しだけ、長生きに興味が出てきた。

(だって。あいつより先に死んだら、私の葬式にはあいつが来る)

 さも大親友みたいな風情で、せい系ブランドのブラックフォーマルをまとって、高らかにピンヒールを鳴らし、首に花珠はなだま真珠のネックレスなんか巻いたりして。まるで悲劇のヒロインよろしく泣きらした目を、ばっちりウォータープルーフのアイシャドウとマスカラで武装して。

 それからきっと、レースで縁取ったハンカチで目元をそっと押さえながら、真っ白いスプレー菊を未桜のかんおけにそっと供えつつ、こんなことをかすに違いない。

 ――ああ。未桜ちゃんはあたしにとって、本当に大事な友達だったんです! まさかこんなに早く逝ってしまうなんて……!

 コーラルピンクのネイルで彩った指先で、これ見よがしに未桜のしかばねに触れ、わざとらしく湿らせた声で、「未桜ちゃん。あっちでも元気でね、またお茶しようね……」なんて歯の浮くようなセリフもつけてくれるかもしれない。死んでいるのに元気なわけがないし、あんたと飲む茶なんぞ、あの世であろうとうまいわけがあるか。考えただけでむしが走る。

(大事な友達。そりゃそうでしょうよ。ってか、大事な踏み台の間違いよね。――あんたは私の人生を丸ごと奪っていったんだから)

 別にご長寿に興味はない。ないが、自分の葬儀の場で、あの女がさめざめと涙に暮れながら母や父にお悔やみを述べる現場を想像するだけで、それこそ憤死しそうだ。

 まったく嫌気がさす。あの女にだけではない。

(――命をつなぎたい理由がそんなことしか浮かんでこない、今の自分にも)

 某シアトル系のカフェチェーンで一番安い、本日のアイスコーヒーをすすりながら。未桜は、ストローの縁を知らずにガリッとんでいた。このところエコだか持続可能ななんちゃらだかの影響で、冷たい飲み物につけられるストローはどこもかしこもみんな紙製なのは、正直ありがたくない。すでに幾度めかの衝撃を受けてペシャンコになったそれは、ただでさえ吸いにくい上に、水っぽく薄まったコーヒーの苦さに紙特有の雑味が混ぜられて、なんともいえない気分にさせてくれるのだった。

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