1 ホイル包み焼きハンバーグ⑫
*
「ただいまぁ……」
駅から徒歩二十分、狭い安普請の賃貸アパートの部屋に帰りつき、未桜は誰にいうともなく
待つ人もない部屋に向けて
(あ。この靴、ヒールがだいぶ
(正直、ちょっと痛い)
靴の修理費は、なかなかばかにならない出費になるのだ。挨拶回りや契約取り付けのために、頻繁に足を使う仕事なので、特にすり減るのが早い。
顔を顰めて
家に帰ってから改めてレンジを使う気力すら残っていないので、弁当類は汁物であってもコンビニで温めてもらうのが常だ。袋の中で
画面を指先でちょいちょいとタップして呼び出したのは、青い鳥がトレードマークの短文SNSだ。アカウント名は〝ロバ〞の二文字。
(王様の耳は、ロバの耳)
狭い部屋に、プシュッと缶チューハイのプルタブを引く音、ラーメンを
フォロワーが限りなく少ない、病みがちなアカウント。この短文用と、動画系の某大手アプリが、今未桜が主に使っているSNSである。
(と言っても、いい加減もう書くことも無くなってきたくらい、なんだけど)
ハハッと軽く笑って、指先を画面に滑らせる。
「……『今日もまた同じことの繰り返し、そろそろ飽きました』……っと」
最初の頃は、「RY」とイニシャルだけ出して、特定は避けるように注意しながら麗子のことも
「……『なんかもうほんと生きるの疲れた、どうでもいい』……っと」
(本当は)
悪循環は、同じ高さで
「さて……」
短文の方に定型文と化した愚痴を殴り書き、今度は動画系SNSにウィンドウを切り替える。少し、気持ちが浮き立った。なぜなら。
(あ、ラッキー……今ちょうど新しいのが上がったところだ!)
チャンネル登録もしているが、短文SNSでもフォローしているアカウントが連動して新作アップをお知らせしてくれるので、見つけるのは早い。
未桜は、今度は少しだけ軽やかな気持ちで、三角の再生マークを押してみる。自動的にスマホの画面の大きさに合わせて拡大されたウィンドウいっぱいに、見慣れた顔が映し出された。
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