1 ホイル包み焼きハンバーグ⑰
*
誰かが作ったご飯が食べたい。
誰かのために作られたコンビニのできあいではなく、誰でもいいから席につけば出してもらえる外食でもなく。自分のためだけに誰かが特別に作ってくれた、
(そして今日もまた、同じことの繰り返し……)
この世に、会社に行くのが楽しい人間というのは存在するのだろうか。そういえば旧約聖書にいわく、「労働は神から与えられた罰なのだ」と聞いたことがある。アダムとイブがうっかりと蛇に
(はー……)
くだらないことを考えずとも、朝は来るし出勤時刻も訪れる。なんにせよ
(今日は午後まではどこのアポも入ってないから……午前中は、メールチェックだけして、あとは総務関係の雑務を色々したらいいはず。確か、今月の契約数ノルマはほとんど達成しているはずだし)
予定を頭の中で組み立てながらエントランスを進む。
ぼんやりと考えごとに
(──なんだろ?)
昨今のトレンドに従い、この会社でも基本的に、イントラネット上のメッセージツールで各種通知が行われることが多い。が、大事なお知らせだけはわざわざ紙に印刷して、古風にこうして公共の場に貼り出される。
なんとはなしに嫌な予感がする。まずは更衣室に行って制服に着替えなければ……と頭の隅で思いつつ、気になってすぐに去る気になれない。
ちなみに、他はどうだか知らないが、この生命保険会社では、二年超えの社員は古株にあたり、中でも未桜はかなり若い部類だ。特に保険商品の販売員は、未桜のようなごく一部を除き、五十手前くらいの女性が家計の足しにと勤める場合が多い。彼女たちはデジタルツールの扱いが苦手で、お知らせがアナログな貼り出し形式を併用しているのもそれが理由だ。子供が大きくなって巣立っていったという人も多く、未桜は割と可愛がってもらえていた。
そんな同僚の一人が、エレベーターホールにぼんやりと立って人混みを眺める未桜に気づき、あっと声を上げた。
「ちょっと未桜ちゃん、今きたとこ!? 掲示見てないよね!?」
「……け、掲示……ですか?」
もちろん見ていない。困惑しつつ首肯を返す未桜に、声をかけてきた中年の女性同僚は、ふっくらした頰に丸い指を当てた。
「ちょっと困ったことになってるのよぉ。上も勝手よね、一方的に、こんな……」
彼女に示されるままエントランスの壁にある掲示を見て、──その内容に、未桜は目を見開いた。
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