1 ホイル包み焼きハンバーグ㉕

 未桜と交代で洗面所で手を洗った後、キッチンに入るなり、シュンはアイランドキッチン入り口のカゴから黒いエプロンをつまみ上げた。パーカーを脱いでシュルッとわずかなきぬれと共に手際よくそれを身につける仕草に、つい未桜は見入ってしまう。エプロンをつけると、かわいらしかった印象が変わり、どこかしくなる。しばけんっぽさにかまけて気にしないでいたが、つくづく見栄えのする子だ。

「ご飯とパンどっちもあるけど、ロバさんどっちが好きですか?」

「えっと、じゃあお米食べたいな」

「了解です! ちなみにスープはオーソドックスにコーンポタージュです。昨日作っといたやつで、生のコーン蒸してからミキサーにかけてるんで、美味しいですよ! サラダも食べられます?」

「是非!」

 調理そのものは済んでいるというが、シュンは鮮やかなさばきでフライパンを火にかけ、出来上がった品々を白い皿に盛り付けていく。つけ合わせ──ガルニチュールは塩を振って蒸したブロッコリーとジャーマンポテト、にんじんのグラッセだと、作業しながら機嫌良く説明もくれた。

 レタスと水菜とパプリカのサラダにしろを使ったドレッシングをかけ、刻んだナッツをパラパラと散らす。なべでポタージュを温める傍ら、ライスを皿に平たく盛って、完成だ。

「できました。どうぞ、召し上がれ!」

 あっという間に準備が出来た料理を、シュンは次々とテーブルに運んできた。深皿で湯気を立てるのは、生クリームを円形にひと回しして、イタリアンパセリをぱらりと散らした優しい色合いのコーンスープに、つやつやの炊き立てご飯。

 卓上に並べられる、まるでレストランで出される品々のように美しいそれらに、未桜は目をぱちくりさせる。水の入ったグラスも青いきりのおしゃれなもので、本当に、どこかの高級店に来たみたいだ。

 最後に、ことりと皿の並びの中央に置かれたハンバーグは、お揃いの白一色の皿の上で、銀色のホイルに包まれていた。れいな正方形に折られたホイルの真ん中は、熱でぷっくりと膨らんでいる。シュンは小さなミルクピッチャーを皿の近くに置くと、「生クリームを最後にちょっとお好みでかけると美味しいんです」と手のひらを見せた。

「……え、と。いただきます」

「はい!」

 なんだか緊張するなあ、とゴクリとのどを鳴らし、恐る恐る、未桜はナイフとフォークを手に取った。

 ホイルの真ん中にサクッと切れ込みを入れると、そこからふわりと香ばしさを含んだ湯気があふれ出す。できるだけ丁寧に、カトラリーを使って放射状に裂いていくと、まず現れたのは、艶々のソースに覆われた、大きな丸いハンバーグだ。オーソドックスなハンバーグより厚みがあって、俵形に近い。

 どんどん穴を広げると、周囲に、ほくほくした皮付きじゃがいもの断面の薄黄色や、綺麗に面取りされた人参のオレンジ色、蒸し焼きにされてしんなりと鮮やかさを増したクレソンやブロッコリーの緑などが現れる。

「美味しそう……」

「へへ」

 思わずつぶやくと、近くで反応をじっと見守っていたシュンが、嬉しそうに笑みをこぼす。「期待を裏切らないといいなあ」とやや緊張したように肩をすくめる彼に首を振ると、未桜は勧められた通り、ピッチャーからクリームをひと掛けした。深い赤茶のソースに注がれた白いクリームが、そこからじわりと色合いにまるみを与える。

 再びナイフとフォークに持ち替えると、未桜はさっそくハンバーグを一切れ、口に運んでみた。

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