1 ホイル包み焼きハンバーグ㉗
いつの間にかすっかり空になった、ホイルや皿を前に。未桜はカトラリーを下ろせもせず、無言の涙をこぼしていた。
(やばい)
困らせる。会ったばかりの、
泣き止まないと。すぐ、すぐに泣き止むから。それで、驚かせてごめんねと謝りたいのに。喉がヒリヒリ、焼けついたように声が出ない。言い訳の代わりに慌ててシュンを見ると、案の定、彼は呆然としたように未桜を見つめていた。
「え、あ……す、すみません、僕見るつもりじゃ! じゃなくて、……あの、これ!」
彼は、未桜と目が合った途端に慌てると、それからエプロンやボトムスのポケットをぱたぱたと
「え、と! よかったら保冷剤もどうぞ」
ややあってから、今度は
「……ありがと、ごめんね……」
やっと言えたお礼は、随分と情けない鼻声だったが、シュンは気にした風もなく「料理のスタジオだから、なんでもあってよかったです」と破顔してくれた。
(どうしよう)
やがて。落ち着いてくると、今度は恥ずかしさに消えたくなってくる。前触れもなくいきなり泣き出してしまった手前、それはもう気まずい。どうしたものか……と視線を
「えっと……僕はまだ青二才だし、ロバさんのされている苦労について、あなたの気持ちがわかりますなんて、間違ってもそんな口きいちゃいけないと思うんですけど。だから、話半分に聞いてくださいね」
「? うん……」
未桜は首を傾げた。何を話すのだろう、と思いきや。
次の瞬間、シュンが出した提案は、未桜にとってあまりに唐突で予想外のものだった。
「──ハンバーグにしちゃえばいいんですよ!」
人差し指をまっすぐ天井に向けて、やたらピッカピカの笑顔でなされたそれに、未桜はあっけにとられる。
「え? は、ハンバー……グにするって、な、何を?」
シュンは未桜の悩みを聞いているし、そこからハンバーグの材料に関係しそうなものなど、およそ導き出されないと思うのだが。当然といえば当然の疑問を呈する未桜に、「すみません、言葉足らずで」とシュンは首の後ろを
「ロバさん、ハンバーグの材料って何か知ってます?」
にこっと微笑むシュンに、戸惑いつつ未桜は思案する。これでも、忙しくなる前には、そこそこ料理の真似事はしていた方だ。
「ええと……合い
そういえばさっきはコンソメスープのゼリーを混ぜるって言ってたなあ、などとも思いながら、指を折って浮かんだものを数え上げていくと、シュンは「はい、全部正解です」と
「おっしゃる通りです。けど、挽肉と玉ねぎまではわかったとして、卵もパン粉もミルクも、入ってるなんて思いながら食べる人いませんよね。それから、さっき僕がおすすめのコツであげた、コンソメスープのゼリーなんかまずわからないと思うし。そういえば、僕はあんまりやらないんですけど、ハンバーグのタネに氷をひとかけ包んで焼くと、肉汁たっぷりジューシーに仕上がるっていう裏技もあるらしいんです。ゼリーも氷も、言われたら『そうなのか』と思うけど、わかんないでしょ。食べても」
話が読めない未桜の、空になった切子のグラスにさりげなく水を注いでくれながら。──きっとよく泣いたから、水分補給の心配をしてくれたのだろうとは、後で気づいた。琥珀色の
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