第5話 初期設定(2) ~それって事実上の魔法では?
僕は幾つか質問をしながら理想の風呂と洗面所の図面をレポート用紙に描いていく。
描き終わる前に、ふっと視界で何かが動いた。
見るとテーブルの上に茶色い紙袋が3つ乗っている。
エリが袋のひとつを僕の方へと差し出した。
「この袋にハルト用の服が入っています。タオルはそれぞれに細いものが2本、大きいものが1本ずつ入っています」
1人分ずつ袋に入っているなんて、なかなか気が利く。
やはり
それでは残念だけれど心が少し落ち着く提案をしよう。
「それでは服を着ましょう。この辺りは僕の元いた時代の習慣です。だからまあ、この時代の今の環境では服を着る必要性は薄いかもしれませんが、習慣という事で着てください」
習慣だという理由で押し通したのは、それ以外に服を着るべきだという理由を思いつかなかったからだ。
正直なところ、2人に服を着せるのは勿体ない。
けれどまあ仕方ない。
僕自身が2人の前で全裸というのに少々気が引けてしまうから。
それに2人のおっぱいが目の前をちらちらするのは落ち着かないし。
僕だけ服を着て2人は全裸のままにするという方法論もない訳ではない。
ただ僕自身だけ特別扱いにするのは気が引ける。
そうする事によって2人の感情その他に悪い影響が出る可能性もある。
『何をやってもいい』とは言われたが、何処までそれが本当なのかは確かではない。
だから出来るだけ安全策をとったのだ。
決して童貞的思考だけでそうした訳ではない。
「わかりました」
「わかりました」
エリとマキ両方が返答した。
これは僕の『服を着て下さい』を2人それぞれに対するに対する命令、と受け取ったからだろう。
どうにも2人の言動が不自然で気になる。
2人いるのに1人の相手のように感じたり、妙に機械的処理のような反応をしたり。
2人とも出会ってから今までずっと、まったくの無表情だし。
やはり自分の意思では無く、
ならば2人は無表情の陰でどう感じているのだろう。
それとも何も感じないようにされているのだろうか。
先程の返答では感情はあるという事のようだけれども。
だからと言って今の時点でどうなるという訳ではない。
そんな事を思いつつ、ささっと自分の服を着る。
サイズはちょうど良い。
ささっと着替えて、そして2人の様子を伺う。
着用方法は知っているようだ。
その辺りは質問するなり今後の観察なりで判断すればいい。
聞いても素直に返答してくれるかはわからないけれど。
2人の服装は僕とポロシャツが色違いで、他は同じ。
エリが水色で、マキが薄緑だ。
3人とも着替えたところで、ふと必要なものを思い出す。
「そう言えば服が汚れた場合の事を考えていませんでした。洗濯機とか洗剤等は用意できますか?」
「洗濯の必要はありません。
知らない言葉が出て来た。
「その
「ユビキタスとは、『神は遍在する』という意味の言葉です。ハルトがいた時代にも、『コンピューターやネットワークが遍在し、使いたいときに場所を選ばずに利用できることなどを表す』言葉として使われていたと記録にはあります」
どうやら此処では、かつて一般的ではないものまで普通に使われていたように記録されているようだ。
5W1Hもそれほど一般的な用語では無かったと思うし。
まあ此処は遥か後の時代らしい。
だから実際にその時代を経験した僕と、記録から知った立場では齟齬が生じても無理はない。
だからここは突っ込まない方針で。
今のマキの言葉に続いて、エリが口を開く。
「
わかりにくい言葉を何とか自分なりに翻訳してみた。
「つまりこうして欲しいと思った事をその場で実現できる、という事ですか」
「概ねその理解で正しいです」
マキが肯定してくれた。
ここで頷くとか表情を少し変えるとかすればもう少し人間的な感じになるのだけれどな。
僕はそう思いつつ、次の質問をする。
「それはどんな事であっても、思うだけで実現可能なんですか?」
「システム側の整備状況や物理的法則によってある程度の制約を受けます。
この恩恵の地では完全に作動する
これは
「また何もない場所から新たに物を生み出したり、マイクロマシンで供給不能なエネルギーを必要とする事も実現できません。
例えば水をお湯にする程度の事は簡単です。ですが水が全く無い場所に水を大量に出す事は不可能です。空気中や付近の物質から集められる以上の水を出す事は出来ません」
「ただ水や生活に必要な物資の一部については、恩恵の地で製造及び蓄積しています。ですので恩恵の地内、あるいは恩恵の地近傍に限れば、ある程度の物資は提供可能です」
やはり、2人と話しているのに相手が単体のように感じる。
背後に
それはそれとして、そのエクステンデット何とかについてはなんとなく理解は出来た。
「何もないところから鉛筆を作れと言うのは無理。でも木と粘土等ある程度の材料が用意してあれば鉛筆を作る事も可能。そんな感じですか」
「概ねその通りです。その程度なら
それって使う側にとってみれば魔法みたいなものではないだろうか。
僕はそんな事を思った。
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