ユグドラシル65535 ~僕と世界樹の巫女達と、恩恵の場所と社会実験~

於田縫紀

プロローグ 僕の置かれた状況の説明。何故何処にどうして僕がここにいるか

第1話 目覚め

「意識レベル上昇。目覚めます」


 知らない女子っぽい声色。

 何だろうと思いつつ僕は目を開ける。


 白い天井、白い壁。僕がかぶっている布団もシーツも白い。

 まるで病院だ。


 しかしベッドの横に立っていた2人を見て、そんな意識は吹き飛んだ。

 外見年齢で言えば2人とも高校生くらいの女子だ。

 1人は赤に近い茶色の髪を腰くらいまで伸ばしていて、もう1人は灰色に近い肩までの金髪。


 2人とも日本人という感じでは無いが、問題はそこではない。

 2人とも裸だったのだ。

 それも多分、全裸という奴。

 僕の視界からは腰から下が見えないけれど、逆に言えば胸は先端まで丸見え。


 ふと気がついて僕は意識を全身の触覚に向ける。

 薄い布団はかかっているが、服の感触は無い。

 つまり布団の下は僕も全裸という訳だ。

 何がどうなっていて、此処は何処なのだ。


 異世界転生という奴でなければ、僕は小野寺おのでら遙人はると35歳。

 独身のしがない三流会社員だ。


 ただこの異常な状況にそういった記憶が通用するのか。

 事故に遭って病院に運び込まれたとしても、全裸女子2人はおかしい。


 つい2人の胸に視線が行ってしまいそうになるが、やはり気づくと嫌われるだろうしまずいだろう。

 僕よりずっと年下だけれど2人共顔は整っている。

 今は無表情だけれど笑顔になればそれなりに可愛いだろう。

 だから出来れば嫌われたくない。


 2人が僕の顔を見る。

 見てはいけない部分を見てしまったのがバレただろうか。

 2人とも無表情に見えるけれど、実はすごく怒っているとか。

 そう思いつつ、何と言っていいのかわからないので、そのまま彼女達の出方を待つ。


 金髪の方が口を開いた。


「オノデラ・ハルトの記憶を持つ遣わされし者よ。世界樹ユグドラシルの恩恵の地へようこそ」


 言葉は理解できるが、日本語では無い。

 ついでに言うと英語でも中国語でもない。

 大学の授業で第二外国語が中国語だったからわかる。


 でもそれなら僕が意味を理解できるのはおかしい。

 何が起きているのだろう。

 今の言葉にどういう意味があるのだろう。


 確かに僕は小野寺おのでら遙人はるとだ。

 しかし記憶を持つというのはどういう意味だ。

 この僕は小野寺遙人ではなくなったのか。


 ラノベなら2人は神で、貴方は転生しましたというところだろう。

 しかしそれにしては雰囲気がおかしい。

 神が全裸の女子高生2人とはサービスが良すぎないか。

 いくら何でも。


 いや、サービスといっても状況が異常すぎる。

 それに2人とも無表情といっていい感じ。

 だからエロい感じはしない。

 それでもベッドのある部屋へ全裸女子なのだ。

 妄想がそっちに飛ばない訳では無い。


 しかし今はそっちの妄想をする状況ではない。

 現状を確認すべきだろう。

 

 金髪はここを世界樹ユグドラシルの恩恵の地と言っていた。

 しかしその言葉が何を意味するのか全くわからない。

 聞いた方がいいだろう。


「此処は何処ですか? 君達は何者ですか?」


 金髪の方が口を開く。


「ここは世界樹ユグドラシルの恩恵の地です」


 次いで茶髪の方が合わせるように続ける。


「私達は世界樹ユグドラシルの巫女、恩恵の地において遣わされし者に従う者です」


 文章としての意味はわかる。

 しかしこの状況の説明として理解出来ない。

 と言うか意味がわからない。

 あとどうしても2人の胸が気になってしまう。


「遣わされしオノデラ・ハルトの記憶を持つ者は、身体に異常無しと診断されています。

 この場所と遣わされし者としての使命について、説明があります。起き上がってついてきて下さい」


 起き上がってと言われても、布団の下は全裸なのだがいいのだろうか。

 ただ裸である事を言うのも、それはそれでセクハラになる気がする。

 そもそもセクハラという概念が通じるかどうかもわからないけれど。


 しかたない、取り敢えずこの場は言われた通りにするか。

 僕のお粗末なものを開陳する事になるが、向こうも裸なのだ。

 おっさんより女子高生の方が裸を見られるダメージは大きい筈。

 損得関係で言えば、僕が損をする事は無い。


 そんな訳のわからない言い訳を頭の中でして、そして身を起こす。

 ちょっとした違和感、それが何に起因するのかわかるまで1秒程度かかった。

 両手が見慣れた僕の手ではない。


 よく見ると身体も僕ではない。

 下半身は布団の中で確認していないけれど、きっとそこも僕ではないだろう。


 なるほど、身体は僕本来の物ではない訳か。

 だから『オノデラ・ハルトの記憶を持つ』なのだなと納得し、布団から身を出す。

 やっぱり下半身も元の僕の身体では無かった。

 ちゃんと剥けている。


 そして身を起こした結果、少し視界が変わった。


 2人ともやっぱり全裸だった事を確認。

 下の毛は赤毛でも金髪でも黒が混じるようだ。

 じっくり見た訳では無い。

 視野に入っただけだ。


 服だけではなく、靴やスリッパ等は無い模様。

 ここはそういった文化が無いのだろうか。

 そう思いながら立ち上がる。


 この部屋をぐるっと見回してみた。

 窓のない、ひたすら白い部屋。

 天井には一辺50cm程度の正方形をした、平たい照明が2個ついている。

 他は扉のない出口と、僕が寝ていたベッドだけ。


 あと2人ともスタイルがいい。

 金髪の方はやや背が高く貧乳で細身のモデル体型。

 茶髪の方は巨乳とは言えないけれど金髪に比べれば大きめ。

 身長はやや小柄、お尻ちょい安産型だが太めでは無くちょうど良い感じ。

 そんな観察を半ば無意識でしつつ、彼女達について部屋を出る。

 

 白い壁、白い床、白い天井の廊下だ。

 素材は不明だが、少なくとも床は金属のひんやりした感じではない。

 幅は2m程度で、天井の高さは多分2.5m程度。

 あくまで僕の目分量でだけれども。


 照明は先程の部屋と同じ正方形のものが10m間隔くらいで天井に付いている。

 廊下は前方、後方共にかなり先まで続いていて、そして行き止まり。

 扉らしきものは見当たらない。

 出入口もさっき出て来た部屋のものだけ。


 つまり僕達が進んでいる方向にも扉や出入口らしき場所は無い。

 どうなっているのだろう。

 

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