おまけ 結ばれて十数日後のお昼に

 午前中の探検を終えて帰宅。

 今日の行程でかなり川に近づけたと思う。

 あと2~3回の探検で川まで辿り着くだろう。


 でもその前にまた獣道を探って罠をしかける方がいいかな。

 特にエリは罠を仕掛けるのが好きみたいだし。


 現在、川を経由して海へ向かうメインルート予定地だけは罠を仕掛けないようにしている。

 そのせいで今日は罠を1箇所しかしかけていない。

 だから明日はエリへのサービスで、脇道的な獣道を辿った方がいいのかな。


 地図を見て少し考えよう。

 着替えた後、テーブルのいつもの席に座ってエリに頼む。


「今日歩いたルートを記載した地図を出してもらっていいか」


「わかりました」


 出てきた地図を見る前にキッチンにいるマキに目をやる。

 いつもなら何も言わず昼食を作り始めるマキが何か言いたそうな顔をしてこっちを見ている。


「マキ、何かあるのか?」


 2人へ対する僕の言葉使いは以前より少しラフな、僕として自然な形になった。

 これはエリに言われたからだ。


『今後も一緒にやっていくのですから、ハルトにとって自然な言葉で話して下さい。今までの話し方はどうにもぎこちなく感じます』


 最初のころは丁寧語と普通の話し方が混在したりしたけれど、今は何とか普通に話せるようになっている。

 まあそれはそれとして、今はマキの話だ。


「先日罠にかかったイノシシで少し変わったものを作ってみました。良ければ昼食で出せますが、どうしましょうか?」


 エリがとにかく罠を仕掛けまくっている。

 100個以上仕掛けた結果、今までに3回ほど大物がかかった。

 内訳はイノシシ1頭、キョンに似た小型の鹿2頭。

 他にトカゲが2匹かかったなんてのもある。


 罠にかかれば世界樹ユグドラシルが教えてくれるし、回収と罠の再設置はExtエクステンディッドUQユビキタスで可能。

 解体も世界樹ユグドラシルがやってくれる。

 つまり最初に罠をしかければいいだけというお手軽な罠猟だ。


 さて、マキはイノシシで何を作ったのだろう。


「何を作ったか聞いていいか?」


「食べるまで秘密です」


 最近はこういう会話も出来るように、あるいはするようになった。

 最初の頃とは随分変わったなと感じる。

 そんな事を言ってもまだ1ヶ月経っていなかったりするのだけれども。


 さて、マキは世界樹ユグドラシルの知識を検索し、遙人はるとがいた頃の日本の料理の発掘なんて事をしている。

 昨日は沖縄風の骨汁なんてのを出してきた。

 あれはなかなか美味しかったなと思い出す。

 今回も期待していいのだろうか。


「是非御願いしたいけれど、いいかな」


「わかりました」


 例のドヤ顔だ。

 どうやら今回はなかなか自信作らしい。

 期待しておこう。


 それでは今日の行程の確認と明日以降の予定だ。

 これは僕とエリの担当。

 さて、エリの意見を聞いておこう。


「エリ、今日は川に向かって進む事を優先したけれどさ。明日はどうする? 今日開拓した道から脇に入る獣道が結構あったから、そっちを調べて罠を……」


 ◇◇◇


 しばらくエリと明日の作戦を練っていると、臭いがしはじめた。

 昨日の骨汁より数段凶悪な臭いだ。

 何を作っているのだろう、マキは。

 わからないけれど大丈夫なのだろうか。


 ちらっとキッチンの方を見てみる。

 何やら色々やっているように見えるが、何をやっているのかは良くわからない。

 それに調理行程の半分以上は収納空間内でExtエクステンディッドUQユビキタスを使ってやっているし。


 マキの方が気になりつつも、エリと明日の行程を話し合い、明日は進むより罠設置重視にする事に決める。

 地図はExtエクステンディッドUQユビキタスで収納せず、本棚の地図バインダーに挟んで綴じる。

 これで今日のお仕事は完了だ。


「お昼の準備が出来ました。宜しいでしょうか」


 こちらの様子を見ていたらしいマキがそんな声をかけてきた。

 勿論大丈夫だ。


「ああ、頼む」


「わかりました」


 マキがキッチンからこっちへ来ていつもの席につく。

 テーブル上にどん、と丼が出現した。


 おお、ラーメンだ。

 それも白濁した汁に細麺。

 先程の臭いからすると、これはきっと。


「豚骨ラーメンか」


「骨を有効に活用出来ないかと検索して発見しました。ハルトのいた時代に、ハルトの住んでいた地域で食べられていたとあります」


 チャーシュー、青菜、ネギっぽい葉がトッピングされている。

 個人的には味玉が欲しかった。

 しかし卵は今の所採取できていないので仕方ない。


「いただきます」


 早速食べてみる。

 おお、ラーメンだ。

 豚骨かどうかは経験不足で良くわからないが、細麺で美味しいラーメンに仕上がっている。


「美味しいな、どうやったんだ?」


「スープはイノシシの骨を割って煮込んだものです。骨はそのまま使うと臭いとあったので、血抜きをした後アルコールで拭いて使用しました。


 麺はシダ澱粉を使っています。麺をラーメンにするにはアルカリ性溶液を使うという事で、爬虫類や鹿の骨を焼成した後水を加えて作った水酸化カルシウム液を使用しました。


 また醤油の代わりになる調味料は肉を原料にするのをやめ、鹿やイノシシの毛を主に使用しました。検索して発見した資料では人間の髪の毛を使ったとあったので、この方がより醤油に近い味になるだろうと判断しました。


 あとはグルタミン酸ナトリウムを味つけに使用しています」


 醤油の材料に何かとんでもない物を使っているようだ。

 これは聞かない方がよかったような……


 でもまあいいか。

 何であれ、このラーメン、美味しいし。


「美味しいと思う。記憶にあったものより美味しい感じだ」


「麺は1.2mmの細さにしています。また太さに多少ばらつきがあった方が美味しいと感じるようなので、あえて0.5mm程度のばらつきが出来るようにしています……」


 マキがドヤ顔で説明を続けている。

 うん、今日も平和だし食事が美味しい。


 きっと幸せというのはこんな日々の事なのだろう。

 何となくそんな風に感じた。

 

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