第14話 外出準備(3) ~指示を忘れたばかりに
まずは縮尺が大きい方の地図を広げる。
地図上ではこの恩恵の地、縦横100mの正方形として描かれていた。
そして東側、中央よりやや南寄りに扉マークの記載。
これはきっと観測所にある出口だろう。
他にはそのような記載は無い。
恩恵の地の周囲100mは草地となっている。
東西南北全ての方向がそうだ。
外周がきっちり一辺300mの正方形として描かれている。
これなら恩恵の地周囲を歩く分には問題なさそうだ。
そしてやはり海があった。
それも比較的近い。
地図は此処恩恵の地を中心にした10km四方が描かれているが、その下側、方向で言うと南側に海が広がっている。
海ならもっと食を楽しむ事が出来そうだ。
魚釣りなんてのもいいし、貝や海藻だって採れるかもしれない。
塩だって作れるだろう。
まあ食塩くらいは
一番近い海岸まで4km程度。
道路を歩くのなら1時間あれば着ける距離だ。
もちろん道がないからそう簡単には辿り着けないだろう。
それでも決して遠くは無い。
川もある。
しかしこの川、残念ながらこの拠点を避けているような形で流れている。
此処から一番近いのは恩恵の地東南側にある河口部で、概ね5km程度だ。
地形そのものは全体として比較的平らな台地状。
この地図内の最高地点で海面から20m程度。
この恩恵の地も15m程度。
川沿いと海岸沿いだけが低くなっている状態だ。
河口部以外の海岸線は基本的に崖。
だから海に出るには少し遠回りだが、川側の低地へ下りてからの方が良さそうに見える。
この地図で見るべき部分はそんなところだろうか。
「ナイフ、提供されました」
マキの声で視線を地図からテーブル上へ。
鞘付ナイフが3つ、テーブル上に出現していた。
木製の柄がついた、何かいかにも雰囲気がある感じのものだ。
手に取って一通り観察してみる。
包丁より背の部分が分厚い感じなのがアウトドア用という雰囲気。
刃も充分鋭く、頼りになりそうだ。
「ありがとう。ナイフは後程外へ出る時に持っていく予定です。ですから1本ずつ自分で仕舞って、いつでも出せるようにして置いて下さい」
「わかりました」
「わかりました」
『
『わかりました』
さて、それでは地図の方に戻ろう。
今度はより広い範囲の地図を見てみる。
恩恵の地がある此処は大きな島か大陸の南側海岸沿い。
北西から北側に山地があり、この辺は大きな平野となっている。
他には北西から東、そして南に流れる大きい川がある。
この拠点からは最低30kmは離れているけれども。
それ以外には特に変わった場所はこの範囲にはなさそうだ。
さて、地図によれば他に特異なものは無さそうだ。
なら最初はこの恩恵の地の周囲を一周。
それで問題無ければ川沿いの低地から海にかけてを目指すとしよう。
海なら動物を狩るなんて事をしなくてもそこそこ美味しい食物が手に入る可能性が高い。
森の中を歩くなら方向がわかるようにしないと迷いそうだ。
木々の中では遠くの目印を見て方向を定めるなんて出来ないだろうから。
でも待てよ、コンパスとか方位磁石が無くても……
『
『可能です。また必要なら恩恵の地東側出口からの方位と距離も回答する事が可能です』
コンパスを持つ必要は無さそうだ。
勿論
海で食料採取できるなら、南東にある河口部までは道を作った方がいい。
もちろん舗装道路ではなく、ハイキングコース程度を想定している。
それでも行き来が大分楽になる筈だ。
森の中に道を作るとなると、木を切り倒したり草を刈ったりする必要がある。
これも魔法というか
『
『木を伐採する事、草を刈る事、刈ったり伐採したりした木を収納する事は可能です』
土を固める事については言及しなかった。
なら確認だ。
『
『乾燥させる事、力を加えて突き固める事は可能です』
ならそれでいいとしよう。
コンクリートでもあれば舗装出来るのだろうが、そこまでは今は考えないとして。
ふと視界の端で何かが動いた気がした。
地図から目線を上げると服の時と同じ紙袋が3つ、テーブル上に出現している。
「靴と靴下、手袋、帽子と」
「上着とズボン、提供されました」
今回もそれぞれ用に紙袋に入れているようだ。
「着替えますか?」
エリからの問いかけ。
こちらからの指示無しで、提案してくるのははじめてだ。
この事は何か意味があるのだろうか。
そう思いつつ僕は返答を考える。
本当なら外に出るのは武器が来てからの方がいい。
ただ昨日から室内移動だけであまり動いていない。
だから少し身体を動かしたい気分だ。
エアライフルを選んで、出てくるのを待ってなんてやっていると外に出るのが午後か、下手すれば明日になってしまう。
それにこのままではまた、エリとマキが『何もしない』をしてしまう。
出来るだけ気にしないようにしているけれど、やっぱりあれは見ていて辛い。
非人間的な感じがしてしまうから。
周囲を歩くくらいなら武器はいらないだろう。
ただ、ここは一応2人の意見を聞いてみようと思う。
「その前にエリとマキ、聞きたい事があるのですが、いいですか?」
「はい、どうぞ」
「どうぞ」
「今回届いた靴や服を全部着装した上なら、観測所にある出口から外へ出て、森の手前部分の草地を、恩恵の地の壁にそってぐるっと一周するのは大丈夫だと思いますか?」
2人に聞いてみる。
「森に近づかないという条件でなら止める理由は無い、そう判断します」
このマキの返答は
それともマキの思考の結果だろうか。
今の僕にはわからない。
「それでは着替えて、少しだけ外に出てみましょう」
「わかりました」
「わかりました」
2人の返答を確認して、僕は手前の紙袋を取る。
大きいのはコンバットブーツで、他は綺麗に畳まれている。
空調服なのだが空気取入口はコンパクトに設計されているようだ。
それでは個室で着装してこよう。
そう思って僕は失敗に気付いた。
個室で着替えるよう指示する事を忘れたのだ。
つまりエリもマキも堂々とズボンを脱いで……
全裸よりまし、そう思おうとする。
しかし生着替え、全裸以上に何か目をそそるものがある。
体形は違うが2人とも綺麗だ。
あと、綺麗だという以上に何かくるものがある。
確か昨日、性処理をしてもいいと……
いかんいかん、僕も服を着ないと。
今更個室へ行って着替えるのも変だろう。
だから僕もちらちら2人に視線を向けてしまいつつ、そそくさと着替える。
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