第15話 環境実査(1) ~はじめの一歩

 靴が思ったより硬くて重い。

 しかし足下が一番危険である以上仕方ない。

 

 一方で空調服は良くできている。

 これについては着装時、マキから説明があった。


「上着とズボンの空調はExtエクステンディッド-UQ《ユビキタス》で作動するようになっています。世界樹ユグドラシルを呼び出して指示する事によって、風の強さ、温度を変更する事が可能です」


 つまり空調服より進化したエアコン付き服という状態だ。

 試しに風の強さや温度を変えて確認。

 これはなかなか快適でいいかもしれない。


 手袋、帽子までしっかり着装した後。


「エリ、マキ、それじゃ行きましょう」


「わかりました」

「わかりました」


 リビングを出て外部観測所1階へ。

 窓の外は晴天。

 ぱっと目には危険そうな動物はいない。


 でも一応確認はしておこう。


世界樹ユグドラシル、出口の外、周辺10m以内に、この装備で出て行って危険な動植物はいるか?』


『いません。なお周辺に危険だと思われる動物、毒蛇、大蛇、猿、猪、オオムカデ等が確認された場合、通知をする事が可能です。通知しますか?』


 なかなか便利な機能だ。

 使わない手は無い。


世界樹ユグドラシル、危険動物確認の通知を頼む。あと危険がわかる範囲はどれくらいの距離だ? 通知する内容は? 危険というのはどれくらいの危険の事を言うんだ?』


『距離ではなく20秒以内に接触する可能性がある場合となります。

 通知内容は危険対象の方向、距離、種類、危険の内容です。また危険とは治療をしなければ機能障害が出る程度を示します』


 至れり尽くせりだ。

 チートと言ってもいいのではないだろうか。


世界樹ユグドラシル、わかった。ありがとう』


 思わず礼を言ってしまった。

 返答は無い。

 まあきっとAIのような非人格的存在なのだろう。

 だから返答が無いのは仕方ない。


 それでは安心して行くとしよう。

 扉を開ける。

 眩しいまでの光量、むっとした空気。


 一歩を踏み出す。

 下は思ったよりしっかり固い感じだ。

 草の根等がそれなりにがっしり張っているのだろう。

 更に一歩、もう一歩と先へ踏み出す。


 下の地面の所々に太い根茎がある。 

 歩く際には踏みおろすようにして足を置かないと、草の根等で躓きそうになるかもしれない。

 そんな事を考えつつ、更に足を踏み出す。


 照りつける太陽の熱量が熱い。

 気温そのものも、そして湿度も結構高いようだ。


 全てが今までの室内と違い、外と感じさせる。

 これはこれで悪くないが少し調整しておこう。


世界樹ユグドラシル、空調オン、温度調整無しで風、中ぐらい』


『わかりました。設定します』


 空調服をセットして、そしてついでにエリとマキにも言っておく。


「必要があれば各自空調服の風量や温度調整など、自分で最適な範囲でやって下さい。また他に必要な事があった場合、僕の指示を待たずに自主的に動いてかまいません。

 ただし危険が迫っている等の場合は僕に教えて下さい」


「わかりました」

「わかりました」


 こう指示しておかないと2人が何もしない可能性がある。

 だからこれは念のため。

 ただ機械と違ってアバウトな言い方で意味が通じるのは楽でいい。

 返答は機械的だけれども。


 周囲を見回す。

 強烈に青い空と眩しい太陽。

 そして背後に僕達が出てきた建物がそびえ立っている。


 ここから見ると、白い壁という表現が一番正しい。

 ひたすら白い壁が空に向かって伸びている。

 そんな感じだ。


 下の方に僕達が出てきた扉と、外部観測所の窓。

 ずっと上の方、下の窓と多分同じくらいの大きさの窓。

 あとはずっと白い壁だ。


 幅は地図によれば100mちょうど。

 高さは近すぎてよくわからない。

 そんな白い壁。


 一方で反対側、森の木々は思ったより背丈は高くなさそうだ。 

 まっすぐではなく枝が多い樹形で、広葉常緑樹っぽい感じの葉をつけている、高さ的にはせいぜい20m程度の樹木。

 樹形から勝手にそう想像しただけだけれども。


 そして今いる草原部分、かなりしっかりした草が生えていた模様。

 根部分がごつごつしている。

 あまり足を上げないで歩くと躓きそうだ。


 草は高さ10cmくらいでばっさり切られている。

 場所によって黒い焼け焦げみたいなものがあるので、レーザーで焼き切る的な方法を使っているのかもしれない。

 しかもこれ、草がある程度育った後にばっさりやったのだろう。

 残っている茎が結構太いから。


 生えていた植物そのものは何種類かあるようだ。

 そう言えば図鑑、植物部分はまだ見ていない事を思い出した。

 ここはエリ、いや、今度はマキに聞いてみよう。


「マキ、この草原部分で食べられる植物はありますか?」


「現時点では刈られて収穫出来ませんが、この草はかつてサトウキビと呼ばれていたものの近縁種です。

 他にアカメガシワ、シソの仲間等、葉を食べられる植物が生えています。ただし現状は刈られた後なので収穫は困難です」


 残念。

 しかしいきなりサトウキビがあるとは思わなかった。

 刈っていない場所なら収穫出来るかもしれない。


 あと食べられる葉はかなり種類がありそうだ。

 これならサラダかおひたし程度なら、割と遠くないうちに食べられそうだ。


 ただし現在、調味料は無い。

 これは食料と別に提供可能だろうか?


世界樹ユグドラシル、調味料は食料とは別に提供可能か?』


『提供可能なものはスクロース、塩化ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムと5'-リボヌクレオチド二ナトリウムの混合物、5%酢酸水溶液、60%のエチルアルコールです。

 ただしスクロースは1週間につき最大1kgまでの提供となっています』 

 

 つまり砂糖、食塩、味○素モドキ、酢、酒の主成分か。 

 何故こういうラインナップなのだろう。

 あと他には無いのだろうか。


『食用油、小麦粉、味噌、醤油等は提供可能か?』


『提供出来ません。ただし食用油や澱粉等であれば、材料があればExtエクステンディッド-UQ《ユビキタス》で精製する事が可能です』


 つまり材料を集めて自分で作れという事か。

 了解した。


 あとついでにエリにも聞いておこう。


「エリ、今の僕達の周囲に、何か食べられそうな物はありますか?」


「地表と草の隙間に生息している小型の節足動物類が数種類、加工方法によっては食用可能です」


 虫の類いか。

 今はやめておこう。

 それならディストピア飯の方がいい。


「わかりました。それなら採取はしないでおきます。あと、この建物の周囲をまわってみようと思うのですが、エリやマキはそうしても大丈夫だと思いますか?」


「問題は無いと判断されます」


 エリだけが回答してきた。

 しかしこれはきっと世界樹ユグドラシルの判断というか回答指示だ。

 何となくそう感じる。


「わかりました。それでは周囲をぐるっと回ってみましょう」


 とりあえずは南側に向けて歩きはじめる。

 せめて何か面白そうな草でもあればいいのだけれど。

 あとは、単独で動いている食べられそうな動物でもいればもっといい。

 両生類か爬虫類あたりなら魔法もどきで倒せる。


 でも川が近くに無いから両生類は無理かな。

 それに爬虫類でも蛇は少々苦手だ。

 でも苦手だからこそ容赦なく殺して食べられるかもしれない。

 そんな事を思いながら、壁から5mくらいのところを南へと歩きはじめる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る