第4話 初期設定(1) ~服とトイレと、ノートとシャープペンシル
次は懸案事項の解決だ。
「先程情報や必要な資材の提供について、エリとマキを通す事と聞いたけれど、服とか日用品等もそうですか?」
おそらくそうだろうと思うが、確認の意味も込めて聞いてみる。
「その通りです。言っていただければ提供可能かどうかの問い合わせをした上で、可能であれば提供します」
回答内容はほぼ予想通りだ。
問い合わせと言うのは
なら次はお願いだ。
「それでは衣服とスリッパを出して貰えますか? 僕の分だけではなく、エリとマキの分もお願いします」
2人の裸を見れなくなるのは勿体ないが仕方ない。
あと全く関係ないけれど、2人続けて言うと襟巻になる。
気付いても今更だがまあ他意は無いし、覚えやすくていいだろう。
「わかりました。衣服はどのようなものが希望ですか?」
それは提供して貰える数を確認してからの方がいいだろう。
この施設の外に出られないような服しかない、というのでは困るから。
だから聞いてみる。
「衣服に関しても提供制限みたいなものはありますか?」
「使用材料に特殊な指定をしない限り制限はありません」
ならば当座の環境だけを考えればいい。
「あと衣服の種類はどんな風に伝えればいいですか?」
「知っている言葉で言っていただければ問題ありません。
それならばまずは簡単で、かつ見苦しくないものがいいだろう。
「僕の分は紺色半袖ポロシャツ、やや生地厚めの紺色Tシャツ、ボクサーパンツ3枚、チノパン、グレーのイージーパンツ、底がやや厚目のスリッパ。
エリとマキの分は僕の恰好に準じた服。下着は僕の時代の女性用を参考に。
あとはタオル、普通のものが6本と、バスタオルが3枚。
これで通じますか?」
「了解しました。至急準備します」
これで裸ともお別れか。残念だ。
ところでエリもマキも何かを準備するような様子は見られない。
これはどういう事だろう。
「服は何処かに取りに行くのでしょうか?」
「提供される物品は任意の場所に転送されます。移動する必要はありません」
この返答はマキだ。
相変わらず口調はエリもマキも全く同じ。
交互に話しているのだが、やはりエリやマキを通して同じ人と話しているような感じがする。
同じ人というか同じ対象かな。
人と言うより機械的な感じがするし。
もしそうならその事を2人はどう感じているのだろう。
「衣服が提供されるまでどれくらい時間がかかりますか?」
「10分程度です」
それなら質問の続きをして待つとしよう。
取り敢えず衣食住のうち衣と食の質問をしたから、次は住だ。
「ところでこの施設というか建物で、僕は何処に住むのでしょうか。良ければ見に行きたいのですけれど」
「この部屋がハルトや私達の居住場所です」
この部屋?
確かに広さは充分ある。
しかし家具は謎素材のテーブルと椅子だけ。
あとトイレや風呂なんてのも見当たらない。
「ベッド等の家具類や、トイレや風呂といった施設は?」
「私達に言っていただければ提供及び設定します。広さや設備内容等の希望を必要な範囲で言ってください」
どうやら全て
これは僕の知識に無いものを出さない為なのだろうか。
いまひとつ意図はわからないが、まあ郷に入っては郷に従えという事にしよう。
「水やお湯を使える量とか、トイレットペーパーの供給量等に制限はありますか?」
「水、お湯、トイレットペーパーについては制限はありません」
今のところ制限があるのは食料だけのようだ。
それならばまず、絶対必要な方から。
「ならばまずはトイレから。独立した部屋で、鍵をかける事が可能な扉付き。広さは概ね1畳半くらいで、そこそこ強力な換気機能を付けて。便器は洋式で温水洗浄暖房便座付。あとは小さめの手洗い場所が欲しいです」
「わかりました。場所はこの部屋から直接出入りすると判断していいでしょうか」
そんな事が簡単に出来るのだろうか。
わからないけれど、僕としてはその方が便利だ。
「それでお願いします」
「わかりました。設定します」
ここで使う言葉は提供ではなく設定のようだ。
2人が使った言葉で気になった事は出来るだけ憶えておこうと思う。
此処の事を知る手掛かりになる可能性があるから。
壁の一部が変化した。
扉だ、それも僕がよく知っている、幅80cm程度で円形のドアノブがついている形の。
素材こそ白色の、他と同じ謎素材だけれども。
この扉の先にトイレが設定されたのだろう。
とりあえず生理的欲求の危機はこれで解決される訳だ。
さて、次は風呂だ。
頼む前に仕様を頭の中で考える。
お湯の使用量に制限が無いなら、浴槽は手足が思い切り伸ばせる広さが欲しい。
あとはシャワーとカランも当然必要。
お湯の温度調整も出来た方がいい。
あと脱衣所兼用の洗面所は絶対欲しい。
無いとこの部屋で服を脱ぐか、風呂へ服を持って入る事になるから。
ここまで仕様に盛り込みたい事が多いと、話し言葉だけでうまく伝えられる自信が無い。
だから次のお願いといこう。
「筆記用具と紙をお願いする事は出来ますか?」
「提供可能です」
なるほど。
「ならシャープペンシルと消しゴム、紙を1枚ずつ剥がせるタイプのレポート用紙と、A5サイズ位のメモ帳が欲しいです。大丈夫でしょうか」
「……大丈夫です。テーブルの上に転送します」
返答まで少し間があったのは、
それとも2人を全面的に操作している
そう思った直後に僕の前、テーブルの上の空気が揺らいだように見えた。
次の瞬間、今までそこには無かった物が出現する。
A4サイズ、横罫のレポート用紙綴とA5サイズのノート。シャープペンシルと消しゴムだ。
「こちらで宜しいでしょうか」
「ええ。ありがとう」
どうやらこちらが言わなかった事に対しても、ある程度は僕が以前いた日本の常識と照らし合わせて判断してくれるようだ。
レポート用紙綴りのサイズがA4で、シャープペンシルの芯が恐らく0.5ミリサイズのところからそう判断する。
それでは風呂と洗面所兼脱衣所の案を描くことにしよう。
僕はレポート用紙綴から1枚紙を取り、シャープペンシルで大雑把な図面を描き始める。
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