第22話 夕食時間 ~ディストピア飯脱出、ただし3分の1だけ

 試行錯誤した結果、何とか主食もどきの焼き団子っぽいものが出来た。


 つまり今回の試作メニューは、

  ○ 主食 オオバコの葉を混ぜ込んだ焼き団子

  ○ 主菜 焼鳥っぽい塩味の肉(4切れ半程度)

  ○ 副菜 ツユクサを茹でて塩味をつけたもの

となった。


 大きめの皿を3枚出して1人分ずつ盛り付ける。

 量が少ないので皿の白い部分が広いけれど、味が混ざらなくてちょうどいいと思う事にした。


 ただこれでは分量が1食分には足りない。

 だから2人に言っておく。


「今度の夕食は採取したものを試験的に食べてみるつもりです。ただ分量が少ないので、提供された食料2人分を3人でわけて食べます」


「わかりました」

「わかりました」


 いつもと同じ返答かな。

 そう思ったらマキの台詞に続きがあった。


「それでは食料の箱を2つ頼んで、ドリンクは2人分を作って、3つのコップに分ければいいでしょうか?」


 そう言えば飲み物のことを忘れていた。


「そうですね。そうしましょう。ありがとう」


 今のはエリとマキで分担したのだろうか。

 2人で相談したのだろうか。

 それとも世界樹ユグドラシルの指示なのだろうか。

 マキが自発的に言ってくれたのだろうか。


世界樹ユグドラシル、今の時間は?』


『18時50分です』

 思ったより調理に時間がかかったようだ。


「少し早いですけれど、採取したものの調理も出来ましたし夕食にしましょうか」


「わかりました」

「わかりました。そこの台からテーブルに運ぶものはあるでしょうか?」


 マキが自分からそう聞いてきた。


「ありがとう。それじゃそっちの皿2つをテーブルに運んで下さい」


「私も何かやることはありますか?」


 エリも尋ねてきた。


「それならテーブルへ箸を3膳運んで下さい」


「わかりました」


 今のマキの言動は自発的だった気がする。

 なおかつマキが聞いてきた時点では、エリは皿を運ぶ必要があると気付いていなかったようだ。


 やはり個性があるし、自己判断し主体的に行動するようになってきているのかな。

 そう思いつつ皿を運んでテーブルにつく。


 エリとマキがいつものディストピア飯の箱をひとつずつ出した。


「開けて分けてしまっていいですか?」


 これはエリだ。


「御願いします」


 エリは茶色、緑色、黄色合計6個のバーフードを2個ずつにわけ、それぞれの皿の、焼き団子の横へと載せる。

 マキはコップ3つに粉末飲料をほぼ等量に入れ、水を出してかき混ぜた後、それぞれの前へと置いた。


「ありがとう。それではいただきましょう」


 まずは焼き団子から試してみる。

 大きさは日本にあった温泉まんじゅうより小さい程度。


 かじりついてみると餅に似た食感と、甘辛く煮たオオバコの葉の味。

 まずくは無いが美味しいとまでは言えない出来だ。

 味の完成度ではディストピア飯のバーフードの方が上だろう。

 しかしバーフードと違う味というだけで、結構嬉しい。


 勿体ないので一口だけ食べ、次はいつものバーフードを1個食べ、そしていよいよメインの焼鳥へ。


 これはいい出来だ。

 味つけはアジシオだけだがいい線いっている。

 ただ甘いバーフードとはあわない。

 バーフードはおやつ的に最後に食べる事にしよう。


 横目でエリとマキが食べている様子を見てみる。

 エリは最初、少し考えるように動きを止めた後、焼き団子へ手を伸ばした。


 一口食べた後、首を傾げて、そして今度は焼鳥もどきへ。

 1個食べた後、続けて無くなるまで一気に食べた。

 どうやら気に入ったようだ。


 一方マキの方はディストピア飯のバーフードから食べ始めた。

 1個食べた後、ツユクサのおひたしもどきへ。

 無表情で食べきって、そのまま次は焼き団子へ。

 今は焼き団子もどきをやはり無表情に少しずつ食べている状態。 

 

 こうやって観察すると2人の動きがはっきり違う事がわかる。

 やはりそれぞれ個性がある独立した人格を持っているようだ。

 明日にはまた今日より違う面を見る事が出来るのかな。

 そう思うと楽しみでもあり怖くもある。


 怖いというのは彼女達に嫌われる事だ。

 厳密には『嫌われているとわかってしまう』事。

 何せ2人は僕を一方的にお世話するという事を義務づけられている。

 それだけでも嫌われる可能性は充分にあると思うのだ。


 今はまだ個性があまり表に出ていない。

 だから嫌われていたとしてもわからない。

 今後、個性が表に出てくるにつれ、その辺りが明らかになってくるかと思うと……


 ただもしそうであったとしても、2人が自分の意思で動くようになっていく事は、悪い事ではない。

 その方が自然だと僕は思うから。

 例え基盤が世界樹ユグドラシルによって作られた人格であったとしても。


 そもそも僕自身だって世界樹ユグドラシルに作られた存在だ。

 身体は勿論、記憶や思考だって遙か昔に生きていた小野寺遙人の記憶情報に、この世界用の言語知識を組み合わせて作ったもの。

 僕自身は小野寺遙人のつもりでいるけれど、身体からして違う。

 それでも自分では普通の人間のつもりだ。

 エリとマキも同じ筈。


 嫌われる事は怖いしその可能性は高いと思う。

 しかしその事自体は少なくとも2人にとっては悪い事ではない。

 勿論嫌われないで済んだらその方が嬉しいけれど。


 友人関係くらいになれれば万々歳。

 勿論それ以上になれればもっと嬉しいけれど、多くは望むまい。

 何せ前世では彼女いない歴=人生だったから。

 記憶にある分では、だけれども。


 あと、これはごくごく個人的な思いだけれども。

 2人とも無表情だけれど笑えば可愛いと思うのだ。

 それを見てみたい。


 さて、それはそれとして。

 今日のレシピは焼き鳥以外、改良が必要だ。

 正直なところ味がいまいち。

 まあそれは明日以降の話になるけれど。

 

 明日以降で思いついた。

 エリとマキがいる間に、明日の予定について話しておこう。


「明日は朝食を食べたら、少し森の方へ行ってみようと思います。南東側、河口がある方向に向けて、無理をしない範囲で歩いてみるつもりです。

 エリとマキも、その予定でいいでしょうか?」


「わかりました」

「わかりました」


 いい悪いではなくわかりましたなんだな、まだ。

 そう思いつつ、僕は口を開く。


「ありがとう。それでは夕食が終わったら自由時間です。僕はお風呂に入った後、寝ることにします。

 エリもマキも自分がしたいと思う事を自分の判断でしてください。必要だ、もしくはあった方がいい。そういう物があった場合、僕から御願いした事にして提供を受けて下さい」


「わかりました」

「わかりました」


 今日はこんなところかな。

 そう思いつつ、僕は残った飲み物を飲み干す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る