第5章 自発的意思と危険な会話
第25話 環境実査(5) ~森の中から無事帰還
『
ヌタ場とは野生動物が体についた虫や汚れを落とすために泥浴びをする場所の事。
エアライフルの本の、狩り実践を描いた部分に書いてあった。
『その通りです。猪や鹿が利用しているものです』
なるほど。
この辺にくくり罠でも仕掛けておけば肉にありつける訳か。
勿論罠を作ってもかかってくれるとは限らないけれど。
『
『100m以内にはいません』
残念ながら今日は狩りにはならない、了解だ。
さて、よく見てみるとこのヌタ場部分、ゆるい谷になっている。
谷といっても周囲との高さの差はそれほど無い。
せいぜい1m程度だろう。
谷全体の幅が5m以上あるから注意しないと谷だとわからない。
意識して周囲を見ると、今まで歩いたところもその程度の凹凸はあったようだ。
今まで歩いていた獣道は概ね周囲より少しだけ高い部分を辿っていた模様。
雑木や草が生い茂っていて今までわからなかったけれど。
そしてこの先は、少しずつではあるが尾根と谷が明確になっていきそうな気配がある。
獣道はヌタ場の先で右側と左側に別れる。
どちらも尾根っぽい、少し高い部分についているようだ。
『
『時間は9時43分です。現在位置は東側出口から直線距離で453m、方向は東です』
なるほど、それならばだ。
「少し早いですが、1回目はここまでにして、今来た道を戻ろうと思います。
エリやマキは何か意見がありますか。もう少し進んだ方がいいとか、帰り方を変えた方がいいとか。何でもいいから教えて下さい」
「此処からでしたらまっすぐ西に歩けば、今歩いた距離の7割程度で恩恵の地に戻る事が可能だと思います。ハルトが使用している
エリは自分で考えた事を言ってくれたようだ。
思います、という表現はそういう事だろう。
「わかりました。それではそうやって帰りましょう」
『
『わかりました』
今まで辿ってきた獣道から斜め右に1m幅の草木が無い場所が出来た。
ただ指示をするだけで、ここまでやってくれるのだから。
ゆっくり先へと歩きはじめる。
僕のおよそ5m先まで空きスペースが出来るので、そこを進めばいい。
少し歩いて気がついた。
この道、獣道を元にしたものより歩きにくい。
ゆるい上下が結構ある上、場所によっては足下が泥っぽい。
注意して歩かないと滑りそうだ。
なるほど、獣道もただ大回りしていた訳では無い。
それなりに歩きやすい場所に出来ていた訳か。
「ハルト、食べられる植物や爬虫類は収納していいですか?」
エリがまた何か発見してくれたようだ。
「ありがとう。御願いします」
「わかりました」
先程の獣道以上にゆっくり注意して歩いて行く。
足下左右に茂るシダ類がガサガサ鳴って動く度にどきっとする。
コンバットブーツや頑丈なズボンで武装しているし、
そう自分に言い聞かせて足を進める。
これでも
わかってはいるけれど疲れる。
そして思ったより森の出口が遠い。
400m無い筈なのに、なかなか辿り着かない。
「すみません。元来た道を戻った方が楽に歩く事が出来たようです」
エリの言葉に確かにそうかもしれないなと思って、そして気付く。
今の言葉、かなり自然というか人間っぽいと。
どうやらエリやマキ、いわゆる人間らしい言動にかなり近づいているようだ。
人間らしいというのは、あくまで僕の感覚だけれども。
とりあえずフォローをしておこう。
「これも無駄では無いと思います。行きとは違う環境や動植物を確認する事が出来ますから。
それに次回はこの道を
「わかりました」
同じわかりましたという台詞でも、今までと比べて少し感情がある感じがした。
僕の気のせいかもしれないけれど。
小さな上り下りが無くなって歩きやすくなる。
周囲の植物もだんだん同じような種類になってきた。
そう思ったところで先が明るくなった。
どうやら森の出口のようだ。
そしてついに恩恵の地の建物が見えた。
一歩一歩歩いて行って、そしてついにあの刈り拓かれた草地に出る。
『
『10時11分です』
ヌタ場から30分くらいか。
思ったより時間がかかっていない。
もっと長い時間歩いた気がするのに。
距離を考えると、時間がかかったと思うべきだろうか。
ヌタ場から400m歩いていない筈だから。
ただ正直なところ結構疲れた。
とりあえず部屋に戻って休もう。
「お疲れ様でした。それでは部屋に戻って、お昼御飯まで休憩しましょう」
「わかりました」
「わかりました」
エリもマキも疲れているような感じがする。
特にマキの方かな、疲れている感じがあるのは。
僕も疲れている。
空調服を着ているのに結構汗をかいているし。
そうだ、風呂でゆっくりするなんてのもいいかな。
ぬるめの風呂にのんびり浸かれば、疲れもとれるしさっぱりするだろう。
そんな事を思いながら最後の行程、観測所への入口目指して一歩ずつ足を動かしていく。
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