第35話 猿人合戦 ~はじめての銃撃戦
『サルはどれくらい危険なんだ?』
『この付近では最も危険な動物のひとつです。ハルトがいた時代のニホンザルよりやや大型で、自分達より大きな動物を襲うという行動も見せます。
群れの縄張りに入った対象に対しては容赦なく攻撃してきます。攻撃方法として引っ掻く、噛みつく等の他、木の棒で突き刺そうとする、投石を行うといった行動を取る事もあります』
かなり凶暴で注意を要する動物のようだ。
『
『ある程度は可能です。
投石については5m以内に入った段階で反対方向に力をかけた水や風で勢いを殺し、落とす事が出来ます。また同様の方法でサル本体に対してもこちらへ向けて進むのを妨害する事が可能です。
ただしそれでもサルが前進を止めない場合、水や風だけで完全に前進を阻む事は出来ません』
『頭の左右に+-逆の帯電をさせ、電撃で倒す事は可能か』
『それは可能です。ただしサルが死亡するのに充分な帯電を使えるのは1秒間に3回が限度です。近接した場所でそれ以上の頻度で帯電を起こす事はマイクロマシンの仕様上不可能です』
つまり同時に4匹に襲われたらアウトか。
どうしようか。
そう思った時だ。
ギャッ、ギャッ、キュゥ、ギュゥ。
そんな動物の鳴き声が響いてきた。
「訂正します。サルの群れが近づいてきます。こちらに気付いているようです」
エリが報告する。
逃げるのは無理だろう。
この森の中では俺達よりサルの方が動きが速いだろうから。
でも一応確認しておこう。
「逃げても追いつかれますね」
「間違いなく追いつかれます」
エリにあっさりそう言われてしまった。
ならば仕方ない。
「此処で迎え撃ちます。木々が少なく岩場に囲まれている分、少しはましなはずです。銃も使いましょう」
『銃を出してくれ。あと先程言ったサル対策、投石等の防止と近づいたサルに対する電撃を頼む』
『わかりました』
ずしりと重いエアライフルが出現する。
弾倉はセット済みですぐ撃てる状態だ。
セレクターを連射にあわせる。
「他に何かした方がいい事はありますか?」
エリとマキに聞いてみる。
「
こちらの方が明らかに強いとわかったなら、サルは退却する筈です」
エリがそう言って銃を前方に構えた。
「わかった。ありがとう」
今の僕達は水場を後ろにして沢の流れていく東側を向いている形だ。
僕が右側で中央がエリ、左がマキという形。
『サルが来る方向を正確に教えてくれ』
『北北東、沢の下側です。ハルトの向いているもう少し左、今向いた正面側です。数は33頭。距離は現在45m』
結構多いし近い。
銃を何時でも撃てるようにして構え、
ギャッ!、ギュウ!
鳴き声が近づいてくる。
一瞬何かが動いたのが見えた。
反射的に引き金を引く。
軽い音ともに弾が3発放たれた。
下草のシダか何かを貫通したらしいバサッという音が響く。
目に見えなくても鳴き声と草木の立てる音で猿が近づいている感じがわかる。
音のした方を狙って連射。
ギャアアッ! そんな叫び声が聞こえた。
どうやら当たったようだ。
倒したのか、致命傷でないのかはわからない。
確認する余裕は無い。
『弾と空気圧を補充』
『完了しました』
今度は少し右を下から上へめがけて連射。
6発ほど弾が飛んでいったが叫び声は聞こえない。
なら次と思った瞬間、明らかに草木では無い物が見えた。
そっちをめがけて連射!
ギャアアッという悲鳴とともに下草に隠れて見えなくなった。
これで2匹目か。
パスパスパスパスパス……
エリは連射しては補充を繰り返しているようだ。
間違いなく牽制にはなっているし、ギャアアッと言う悲鳴も時々聞こえる。
一報でマキはなかなか撃たない。
狙ってはいるようなのだけれども。
がさっという音がこれまでより横方向から聞こえた気がした。
『横方向や背後に回ろうとしているサルがいたら教えてくれ』
『わかりました。左側にいるものはマキが
パスパスパスパスパスパスパスパス……
マキが一気に連射した。
ギャアアッ! ギャアアッ! ギャアアッ! ギャアアッ!
マキが撃った方向から悲鳴が4つ。
おそらく回り込んでいたサルだろう。
『
『正面です。エリが牽制していますが、数が圧倒的に多いです』
『わかった。弾と空気を補充』
『完了しました』
何度も繰り返した気がする。
実際にはせいぜい2~3分だったのだろうけれど。
何回目かのギャアアッ! という悲鳴が聞こえた後。
クウゥゥゥゥ、そんな今までと違う声が響いた。
ふっと空気が変わった気がした。
ガサガサッという音が大きくなるが、近づいている感じではない。
むしろ遠ざかっている気がする。
何だ、何なんだ。
『今のサルの声は何だ?』
『おそらく撤退の合図です。東北側へ逃げていきます』
何とかなった訳か。
ふうっと息が出てきてしまう。
「倒したサルの死骸は収納しますか?」
エリが聞いてきた。
「食べられますか?」
「肉は問題ありません。ただ系統的に人間に近い事からプリオン病の
そうなのか。
何処かの料理で猿の脳味噌を食べるなんて話を聞いた事があるような気がしたけれども。
それなら有効活用した方がいいだろう。
「それでは収納を御願いします」
「わかりました」
「あと、もう北側を通って帰っても大丈夫だと思いますか」
「大丈夫です。サルは完全に東側へ逃げました」
なら帰ることにしよう。
今の戦闘でかなり疲れた。
精神的にだけではなく、銃を構えていた腕とかも。
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