第20話 武器実習 ~エアライフルを実際に撃ってみた~
耳元でアラーム音が鳴った。
時間だ。
僕は靴の紐をしっかり結んで、そして自室から出る。
やっぱりエリとマキはテーブルのいつもの場所にいた。
エリとマキが同時に僕の方を見る。
「銃と弾が提供されました。なおマガジンは外してあります」
「マガジン以外の装備品は全て装着済みです。スコープは調整済み、エアも規定の最大圧力で入っています」
テーブル上にはエアライフルが3丁。
オリジナルでは黒色プラスチックだった部分が木製になっていて、なかなか見た目がいい感じ。
あとは円形のマガジンと弾が入った缶が出ている。
僕用のものは長さ90cm程度、重さは4kg。
口径5.5mmの方は
エリとマキが使う場合、この方が取り回しがいいだろうと思ってだ。
「ありがとう。それじゃエリとマキは短い方をそれぞれ1丁ずつ仕舞っておいて下さい。外で試し撃ちをしてみますから」
「わかりました」
「わかりました」
僕もエアライフルを手に取る。
結構大きくそして重い。
普段は仕舞っておくからこれくらいでも大丈夫だとは思うけれど。
エリとマキがエアライフルをしまったところで声をかける。
「それでは外へ行きましょう」
外部観測所を経由して外へ。
『
『わかりました』
これで安全面は大丈夫だろう。
それにしても外、やはり結構暑くて蒸している。
夏の夕方という感じだ。
5月半ばでこれなら7月はどうなるのだろう。
『
『わかりました』
一応エリとマキにも言っておこう。
「エリもマキも、暑かったり蒸したりした場合は空調服の送風を適宜自分で調節して下さい。以降、この服を着ている場合、僕が何も言わなくても自分の判断で調節お願いします」
「わかりました」
「わかりました」
これで以降は大丈夫な筈だ。
それでは銃の試射をするとしよう。
しかし的は明るい場所に設置した方がいい。
こちら側は大分影になってきているから、やるなら恩恵の地の南側か西側だな。
「これから南側に移動して、それから銃の試射と練習をしてみるつもりです。
まずは移動しましょう」
「わかりました」
「わかりました」
返事を聞いた後、歩き始める。
そうだ、これを言うのを忘れていた。
歩きながら後ろをついてくる2人に声をかける。
「エリ、マキ。今回も食用になって採取できそうな植物や、100g以上可食部がありそうな食べられる動物がいたら教えて下さい。範囲は僕から30m以内。ただし植物は朝に採取した物以外でお願いします」
片方では無く2人にお願いしたのは、何となく昨日と2人の様子が違うように感じられたから。
『自己判断し主体的に行動するようになってきていると判断されます』と。
だから2人に指示を投げ、どちらがやるかは2人に判断して貰おうと思った訳だ。
そうすれば得意な方なり順番なり、2人で判断してどちらがやるか決めてくれるだろうと思うから。
そうあって欲しいと思うから。
「わかりました」
「わかりました」
返答はまあ、今までと同じだけれども。
東南の角に到着。
それでは試射の準備だ。
「エリ、マキ、此処で銃の試射と練習をしてみましょう。そこで突然で申し訳ないのですが、厚紙製の標的紙と、標的紙を立てる為の台をお願いしていいでしょうか」
「わかりました……転送、出ます」
そう言ったのはエリだ。
しかし台はエリの所へ、標的紙はマキのところへ出た。
これは2人がそう転送するよう判断したのだろうか。
それとも
標的台は組み立て式の模様。
それほど複雑では無く、エリとマキだけでもすぐに組み立てられる程度に見える。
標的紙は大きくて薄い箱に入っているようだ。
枚数は不明。
大きさから見てスラッグ弾用の標的だろう。
エアライフル競技用のは小さすぎるからこれでいい。
「設置する場所は此処でいいですか?」
エリから聞いてきた。
いい感じだ。
無表情な事を除けば普通の会話っぽい。
「ええ、そこでいいでしょう。標的紙をセットして下さい。セットしたら、50m離れたところから撃ってみましょう」
「わかりました」
「わかりました」
2人で協力して標的紙をセットしている。
ならば僕のやるべき事は、距離を測る事かな。
『
『わかりました』
「それじゃ僕は銃を撃つ場所へ先に行っています。標的紙をセットしたら来て下さい」
「わかりました」
「わかりました」
ゆっくり歩いて77歩目。
『そこでちょうど標的台から50mです』
『
『わかりました』
すっと黒い線が出現する。
僕が言った通り草を熱で焦がして描いたようだ。
『
エリとマキが標的をセットし終わった。
こちらに向かって歩いてくる。
近くまで来たところで声をかけた。
「それじゃ銃を出して試射してみます。危険なので僕より後ろにいて下さい」
これで万が一の際でも誤射で負傷なんて事にはならないだろう。
もちろん実際に使う場合は縦列で歩いたりするとは思う。
でも今回は初回だから万全を期すという事で。
エリとマキが僕の後ろに来たところで、僕は銃を出した。
長くそしてずっしり重い。
いかにも武器という感じがする。
「エリとマキはこの銃の使い方はわかりますか?」
「はい。使用方法その他についての知識を一通り
「私もわかります」
エリの『私もわかります』という台詞も含めて。
こういった会話の変化は学習によるものなのだろうか。
それとも自分で判断する権限的なものを広げる事によるものなのだろうか。
学習にしては変化が早すぎる気がする。
だからきっと後者だろう。
もともとエリもマキも自分の人格がしっかりあって、それが表に出てきただけ。
僕はそう思うのだけれど実際はどうなのだろう。
しかし今は考える時間では無い。
エアライフルの試射の時間だ。
「それではまず僕から撃ってみます。僕が終わりを宣言したら次はエリ、エリが終わったら次はマキという順番でやりましょう」
僕も一応事前学習は済んでいる。
あくまで本を読んだだけだけれども。
空気はボンベに充填済み、マガジンには弾も装填済み。
マガジンを銃本体にセットし、セイフティーを
「それでは撃ちます」
本で見た立射の姿勢をイメージして、サイトの中心を的にあわせる。
どうしても揺れ動いてピタリと中心で止める事が出来ない。
ある程度やって妥協する事にした。
揺れがちょうど中心、的に来た辺りで引き金を絞る。
パン、思った以上に軽くて小さい音。
反動も警戒していたよりずっと軽い。
火薬式の銃とはかなり違うようだ。
まあ銃なんて撃ったのはこれが初めてだけれども。
さてどうだろう。
的を見ると中心から少し外れている。
ただこれは僕の腕前のせいだろう。
更に狙いながらゆっくり4射。
2発が標的の一番中央の円内に入った。
どうやらこのエアライフル、かなり命中率が良さそうだ。
はじめて使った僕でもこれくらいに撃てる。
次は連射にレバーを切り替えて試射。
タタタタタッツ、音はやはり軽い。
反動は結構ある。
あっという間に弾が空になった。
『
『可能です。補給しますか』
『
『わかりました』
あっさり。
補充してくれたところで、今度は
的の一番中央の黒丸に弾痕が開いた。
何となくコツを掴めた感じだ。
このエアライフル、使える。
サルを追い払うには充分だろう。
連射で鳥を狙ったらズタボロになって食べられなくなりそうだけれども。
とりあえず安全の為に銃は仕舞っておこう。
『
『わかりました』
これで必要な時はすぐ使える。
それではエリとマキが試射する前に。
「打ち終わりましたが、的がずたずたです。新しい標的紙に替えてきますから少し待って下さい」
「私が替えてきます」
「一緒に替えてきます」
僕が指示するより先にエリとマキが動いた。
小走りで的の所まで行って、2人で標的紙を替える。
この程度はこちらの指示無しでやってくれるようになったみたいだ。
2日目としては順調なのかな。
そんな事を思う。
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