第23話 折込む(5)
「あの……先刻の蛇さんとの話でその……孵化とかなんとか言っていたのは?」
「あぁ、それか。要するにミズキの胎内に入り込んでいた俺の分身が卵となり俺の精液が足されることによって受精し孵化したということだ」
「………えーっと?」
リュウビの説明ではよく解らなくて首を傾げた。
「解らぬか? ──つまりミズキが八年前に呑んだ池の水が長い時間をかけてミズキの胎内でひとつの成熟した卵となり、其処に俺の精液を注ぐことにより受精卵となる。其処からニ、三ヶ月ほどかけ人としての形の胎児となり、後は人の子と同じように十月十日後産道から出産することになる」
「……え……えっと……つまり、普通の妊娠から出産よりも期間が長いってこと、ですか?」
「簡単に言うとな。多分今のミズキの状態はようやく受精卵が胎児となって子宮の中で生育を始めた頃ではないかと思う」
「……」
それって……
それって──
「どうした、ミズキ」
「わ、私……妊娠、して……いるんですか?」
「あぁ、俺の子を孕んでいる」
「~~~っ」
あまりにも突然のことに一気に涙腺が崩壊した。
「! 何を泣いておる」
「だ、だって……だってだってそんなの全然分からなくて」
「そうか。不安だったのか?」
「す、少しだけ……。だって全然分からなかったから早く……早くリュウビに赤ちゃん見せたいって思っていたのにそういう兆候が全然なくて……」
「早く見せたかったとは」
「だってリュウビ、もうすぐ寿命が尽きて死んじゃうって言っていたじゃないですかぁ」
「……」
私はリュウビが言っていたことを鮮明に覚えていた。
『ここ数年、なんとなく分かって来ていた。俺の寿命もそろそろ尽きる時かと』
『そんな時にミズキが俺の前に現れた。御池様として生きて来た俺は子を成すこともなくこのまま誰にも知られないままひとり朽ち果てるのかと思っていた時に』
「だから一日でも早くリュウビの子を産んで少しでも長く親子三人での時間を持ちたいと思っていて……」
「ミズキ、おまえは」
正直な気持ちの大半はそれだった。
だけどもうひとつ心にあった不安は、私が思うよりも早くにリュウビの寿命が尽き、次の御池様になるかどうかの選択をまだ幼い子が決めなくてはならなくなった時のことを考えてしまって、それが怖いと思っていた。
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