第6話 恋乞う(4)



「まぁ、神としての力は薄まって来ておるがそれでも完全な人の子としては生きてはいないのだよ」

「……はぁ」


当時10歳だった私は語られる話を嘘とも本当とも思えず、ただただ話される内容をふんふんと訊くだけだった。


「それで話を戻すが──おまえは池の水を呑んだのだな」

「!」


そう。私は池の水を呑んだことについて尋問させられていた。


「呑んだな?」

「……はい」

「それで体はなんともないのか」

「え、体? ……特には」

「──そうか」


御池様の問い掛けに素直に答えると何故か御池様はニッと微笑んだ。


「そうかそうか。それは善きことかな」

「?」

「おまえは野宮の家の者だといったな」

「……はい」

「だからなのだな。普通の人間が池の水を呑んだら蛇に化身していたところだ」

「えっ!」


(嘘っ! な、何、その怖い設定!)


酷く驚いた私を御池様は大して気に掛けることもなく淡々と話を続けた。


「先ほど話したように俺と野宮の間には特別な繋がりがある。それは子どものおまえにも分かるだろう?」

「あ……えっと……野宮の家の巫女様と龍神様が結婚して──」

「結婚はしておらんかったがな。単に子どもを孕んだだけだ」

「はらんだ?」


御池様の言葉に解らない言葉があって首を傾げると「まぁ、それはさておき」と咳払いをひとつした。


「つまり俺の血には野宮の血も混じっている。故に子を成すには野宮の血を持つ女子の器が必要だというわけだ」

「おなご? うつわ?」

「子どものおまえには難しいだろうが覚えておくといい。おまえが呑んだこの池の水は俺そのものだ」

「は?」

「長年この池に住まい、気や霊力、ありとあらゆる体液を含んだ池の水はいわば俺そのもの。その特別な池の水はただの人間には毒にしかならぬ。だが野宮の血筋の女子は水を含んだ体が成熟した暁には俺の子を孕むことが出来る」

「はらむ?」


また解らない言葉が出て首を傾げる。


「今はまだその時ではないからソレはおまえの胎内で静かに眠っている。だが体が成長し熟す度にソレは目を覚まし産まれるための準備を始める」

「……ソレ?」

「長い年月をかけ俺の子を孕める状態になった時、おまえは俺の全てをその身に受け入れることになるのだ」

「……」


それはまるで遠いお伽話の様な絵空事だった。



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